マツダが目指す「究極の内燃機関」実現の第一歩SKYACTIVエンジン開発者に聞く(2/4 ページ)

» 2011年06月09日 14時00分 公開
[岡田大助,Business Media 誠]

キーナンバーは「14」、究極の内燃機関の実現に向けて

 さて、いよいよマツダが世に問うガソリンエンジン「SKYACTIV-G」とは既存のエンジンと何が違うのだろうか。欧州メーカーのように排気量や気筒数を減らし、ターボチャージャーで補うダウンサイジングコンセプトとは大きく異なる「究極の内燃機関」に向けた技術的な戦いだ。

 キーナンバーは「14」である。クルマのエンジンは、燃料(ガソリン)と空気を混ぜた「混合気」を圧縮し、爆発させてエネルギーを生み出す。SKYACTIV-Gでは、圧縮比を既存のエンジンよりもさらに高めて14:1にした。

 理屈では、圧縮比を高めるとより多くの仕事をエンジンがすることになるため、トルクが出る。しかし、圧縮比を上げていけば点火前に圧縮したことによる温度の上昇によって自己着火してしまうノッキング(異常燃焼)が発生しやすくなり、トルクが下がる。

 「高圧縮比化したらノッキングが出てトルクが下がる。だけど、あきらめるのか?」 マツダの技術者は、自明と思われた弊害を承知のうえで、ノック限界トルクを探るべく圧縮比を11、12、13、14、15と上げていった。すると圧縮比13を過ぎたころからトルク低下がゆるやかになることに気付く。「あ、たったこれだけのデメリットか。これならいける、いける」

 低温酸化反応によりトルク低下が致命的でないことを発見した技術者らは、直噴による吸気冷却効果を促進するような噴霧パターンを探り、耐ノック性向上ピストン形状や円滑な火炎伝播を模索し、4-2-1排気という新たな排気パターンを構築した。

エンジンの効率改善はたった7つの制御因子しかない

 現行エンジンに比べて低・中速域で15%のトルク向上を実現したSKYACTIV-G。あえて困難な「高圧縮比化」という道を選んだのは何故か。

 人見氏は、エンジンの効率を改善するとしたら、圧縮比、比熱比、燃焼期間、燃焼時期、壁面熱伝達、吸排気行程圧縮差、機械抵抗という7つの制御因子を理想に近づけるということしかないと断言する。

「どんな技術を挙げても、必ずこの7つに入ります。だから、現時点で理想的なものを緑色で、理想から遠いものを赤色で表現しました。ガソリンエンジンで赤いのは、圧縮比、比熱比、壁面熱伝達、吸排気行程圧縮差の4つです。『究極の内燃機関』というものの姿を思い浮かべたら、これらを緑色に変えていかなければならない。だから、圧縮比の問題を赤く残したまま“上がり”とはならないんです」

7つの制御因子 究極の内燃機関に向けたステップ

 SKYACTIV-Gのブレイクスルーは、目標を明確にし、現行の課題をシンプルに整理したことに尽きるだろう。

「『燃費改善の方法は、このように考えなくてもたくさんある。1000人の技術者がいたら、1000の方法が出てくるよ』なんて考えたら、わざわざ最も難しいものを解決しなくても、残りの999の方法を探ればいいじゃないかとなると思います。でも、困難が待っていたとしても、この7つをやるんだと覚悟を決めてしまえば、トルクカーブの見え方も変わってくるものです」

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