7億円を投資してバイオ燃料の旅客機を飛ばすルフトハンザの本当の狙い秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(3/4 ページ)

» 2011年10月24日 08時00分 公開
[秋本俊二,Business Media 誠]

地球温暖化は確実に進行

「私たちの取り組みを視察するために東京からわざわざお越しいただいたとうかがいました。ようこそ、ハングルグへ──」

 キルシュフィンク氏はそう言って笑顔を見せ、私に手を差し伸べた。夕方のフライトの時間も迫っているので、さっそく会議室に案内され、本題に入る。先ほどのツショッケ氏にも聞いたことだが、まずはやはり今回のプロジェクトの目的について──。

飛行機と空と旅 技術担当ディレクターのフランツ・ヨゼフ・キルシュフィンク氏

 「目的? いきなり難しい質問ですねえ」と、キルシュフィンク氏は苦笑いを浮かべて言った。「たかが半年間の実験フライトで地球環境が守れるなどというノー天気なことは、私たちはこれっぽっちも思っていません。1500トンのCO2を削減するといっても、地球全体から見れば微々たるものですからね。ただ、やれることをいまやるしかない。そう思うんです。こうしてお話ししているいま現在も、地球の温暖化は確実に進行しているわけですから」

 バイオ燃料フライトの技術やノウハウで、ライバル各社を一歩リードしたい──そんな思惑は彼らにはまったくないようだ。同じことをやれるエアラインがあれば、どんどんやればいい、やるべきだとキルシュフィンク氏は言った。

飛行機と空と旅 地球の温暖化が確実に進行するなかで「やれることをやるだけ」とキルシュフィンク氏

空港は美しい場所ではない

 以前、空港で貨物を扱う仕事に就いている知人に会いに、羽田空港を訪ねたときのことである。飛行機を見ながら食事を楽しむカップルなど、前に比べて空港もずいぶん若い人が目につくようになったね──という話になったあと、知人はこんなことをつけ加えた。

「空港って、たしかにロマンチックなイメージがありますね。でも、ここで毎日働いている僕たちにとっては、空港はぜんぜん美しい場所ではありません。飛行機の排気ガスの影響で、ランプでの作業を終えると耳や鼻の中が真っ黒になります。1機の飛行機がエンジンを吹かしたときに出る排気ガスは、普通の乗用車の100台分ぐらいに相当するっていいますよ」

飛行機と空と旅 旅客機の排気ガスが充満する空港は、決して美しい場所ではない

 乗用車100台分! 環境への負荷も相当なものだと実感した。これを放っておくわけにはいかない。地球温暖化の原因であるCO2の排出をいかに少なくするかは、航空機メーカーにとってもエアラインにとっても避けて通れない重要なテーマであり、各社はすでに動き始めている。

航空事業を次の時代にも

 その対策が、バイオ燃料フライトである必要はない。例えば、空気といっしょに吸い込んだ土や埃がエンジン内に付着し、取り込める空気の量が減少して消費燃料が増えてしまうことを抑制するための、エンジンの水洗い。あるいは機体を軽量化して燃費効率を上げるための、機内に搭載する薄い素材の食器なギャレー設備などの開発。非塗装の“ベアメタル機”の運航なども、機体重量の軽減や塗料の剥離による環境への影響に少なからず効果をもたらすだろう。それらの行動を、キルシュフィンク氏はすべて評価する。

 「ルフトハンザの取り組みもバイオ燃料フライトに限ったことではありません」とキルシュフィンク氏は言う。「環境に優しい最新機材の投入や、エンジン技術の向上、インフラ改善などさまざまな面で私たちは努力を続けてきました。その目的は、私たちが愛する航空事業を次の時代も続けていきたいから──ただそれだけなんですよ。お金儲けの一環と考えていたとしたら、こんな割の合わない活動はありません。だってバイオ燃料プロジェクトだけでも、私たちは660万ユーロ(約6億8000万円=2011年10月現在)も余分な投資をしているのですから」

飛行機と空と旅 半年間のバイオ燃料プロジェクトに660万ユーロ(約6億8000万円)を投資

 ルフトハンザは地球環境を守るための活動に1991年から本格的に着手し、これまで30%の燃料効率改善を達成。乗客1人を100キロ運ぶのに使用する燃料を、2010年には平均4.2リットルにまで抑えることに成功した。

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