メインの展示空間では、31メートルの壁一面を使った大きな空間で超高精細プロジェクターを使い、ペンさんが撮影したISSEY MIYAKEのコレクションが投影されている(18分39秒)。ものすごい迫力である。
これだけ大きな画面で見ると、作品のすごさを目の当たりにできる。ほぼすべて真っ白な背景で撮影され、モデルのヘアやメイクにまで細部にわたりディレクションされており、指先、髪の毛の先、布の先端までフォルムが際立ち、写真全体に緊張感が漂う。年代順ではなく、本展のために新たに構成された映像だが、時代感がない。ファッション写真を超えたアートピースといっても過言ではないだろう。ただただ息を呑むばかりの映像が淡々と続く。
毎年、春夏と秋冬と2回、三宅一生さんからアーヴィング・ペンさんにコレクションの作品の数々が送られ、北村みどりさんによってひととおりの説明はされるが、最終的に撮影する服選びもスタイリングもヘアメイクもすべてペンさんのディレクションのもとに行われた。ワンピースを何枚も重ねて着たり、スカートを頭に被ったり……、服一着一着の本質を見事にとらえ、スケッチを描き、写真作品を作り上げていった。三宅さんは、でき上がった写真を「通信簿のようだった」といい、毎回楽しみにしていたのだという。毎年数十セットの服を送ったが、ペンさんが撮影する枚数は異なったという。
メイン会場の反対側の壁にはオリジナルプリントが展示されている。プロジェクターで見る作品も大迫力だが、プリントはまたまったく異なる味わいを見せてくれる。
アーヴィング・ペン「ISSEYMIYAKE Seaweed Dress」、ニューヨーク、1987年(プラチナ・パラディウム・プリント)Copyright by The Irving PennFoundationプラチナ・プリント、シルバー・プリントによる作品は、吸い込まれるような絞まった深い黒、淡くどこまでも細かいグレーの濃淡など、思わずうっとりしてしまう美しさである。写真というのは錬金術だなあと、いたく感動してしまう。そんな貴重なプリントはぜひ実物を見ておきたい。
アーヴィング・ペン「ISSEYMIYAKE Staircase Dress」、ニューヨーク、1994年(プラチナ・パラディウム・プリント)Copyright by The Irving PennFoundationペンさんが描いたスケッチもずらりと並べられている。アニメーションにもつづられているが、ペンさんは撮影をする前に必ずスケッチを起こす。スケッチを描いた時点で彼の頭の中にはヴィジュアルが完成していたのだろう。撮影された写真とスケッチには、ほとんどブレがない。
ISSEY MIYAKEコレクションポスター、1994年SS写真:アーヴィング・ペン、ポスターデザイン・タイポグラフィ:田中一光 Photograph copyright by The Irving Penn Foundationアーヴィング・ペンさんはアートディレクターの気質も兼ね備えていた。というのも、もともと画家を目指しており、1930年代後半に、美術大学で雑誌「ハーパース・バザー」のADであったアレクセイ・ブロドビッチさんに師事。1943年より当時雑誌「ヴォーグ」のADアレクサンダー・リーバーマンさんから誘われてヴォーグ誌で働き、表紙デザインを担当することになる。リーバーマンさんに勧められ、自身で写真を撮り始めたのがペンさんのキャリアの始まりだ。スケッチの素晴らしさも納得できる。
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