今週末見るべき映画『マリリン 7日間の恋』(1/2 ページ)

» 2012年03月23日 15時10分 公開
[二井康雄,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

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※この記事は、エキサイトイズムより転載しています。


 映画を見始めたころから、マリリン・モンローが大好きだった。セックスシンボルといわれていたが、月並みな色っぽさではない。いくつかのコメディで見せたセンスは、秀逸と思う。強さ、弱さ、脆さ、可愛さなどなど、女性の持つさまざまな面を、的確に表現、まさに計算され尽くした演技だった。

 出生から世に出るまでと、謎の死までの晩年は、いささか不幸のようだったが、女優としてのモンローは、映画の歴史に残る1人だろう。たまたま今年は、没後50年になる。残されたモンローの映画は、いまはDVDで見ることができる。見続けたいと思う女優の1人だ。

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 モンローの多くの映画のなかで、とくに好きなのが3本ある。1954年のオットー・プレミンジャー監督の西部劇『帰らざる河』では、酒場の歌手に扮し、艶やかな肢体をくねらせ、主題歌を歌う。1959年のビリー・ワイルダー監督のコメディ『お熱いのがお好き』では、女性バンドの一員に扮し、女装したジャック・レモンとトニー・カーティスを相手に熱演した。

 1961年、ジョン・ヒューストンが監督、モンローと結婚、後に離婚したアーサー・ミラーが、自身の短編小説を基に脚本を書いた『荒馬と女』に出演する。共演のクラーク・ゲイブルが馬を操る名シーンもさることながら、モンローは、揺れ動く女心を見事に演じきった。『荒馬と女』の完成後に、モンローは謎の死を遂げる。結果、これが遺作となった。

 このほど、モンローの秘められた日々を描いた『マリリン 7日間の恋』(角川映画配給)を見た。1956年、モンローは、ローレンス・オリヴィエが監督、主演する映画『王子と踊り子』の撮影のために、イギリスに渡る。モンロー自身もスタッフに名を連ねる映画だ。もちろん、結婚したばかりの劇作家アーサー・ミラーも同行する。

 当然、モンローの学んだ演技と、オリヴィエの作劇術が噛み合わない。その摩擦が、スピーディにドラマを推進する。後半は、ゆったり。モンローは、見張り番のコリンを誘い、ウィンザー城に出かける。ふだんは入れない図書室にも、コリンのコネで入室する。池で泳ぎ、少女のように、モンローははしゃぐ。束の間の時間が、モンローを癒していく。

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 もちろん、オリヴィエは、演劇で鍛えたキャリアがたっぷり。オリヴィエなりに作り上げたかったモンロー像は、皮肉な結果となるが、モンローのなかに、俳優としての天性を認めることになる。交わされるセリフは、皮肉たっぷり、ユーモラスで、よく練られた脚本と思う。ニヤリとするセリフが続出、イギリス人たちの、小粋でブラックなユーモアに感心する。芸達者が揃う。モンローを演じたミシェル・ウィリアムズが巧い。ことさら似ていなくても、まるでモンロー自身が演じているように錯覚するシーンが、たびたび出てくる。

 ミシェルは、2010年の『ブルーバレンタイン』に続いて、今年のアカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされた。モンローの繊細だった心情を、ごく自然に演じている。オリヴィエに扮したケネス・ブラナーと、女優のシビル・ソーンダイク役のジュディ・デンチは名優である。ことに、師匠筋にあたるオリヴィエを演じるケネス・ブラナーは、うまいとしか言いようがない。この名優2人に、ミシェル・ウィリアムズは、互角に渡り合う。

 原作は、コリン役で登場するコリン・クラークの書いたノン・フィクション。主に、イギリスのテレビ畑で実績のあるサイモン・カーティスが監督、余裕たっぷり、軽快な演出ぶりだ。モンローの、わずか1週間ほどを描いた映画だが、あらためて、マリリン・モンローという女優の偉大さを思い知る。

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