ブームが終わり、若者の時計離れが進む中でG-SHOCKはどうなった?――田中秀和さんG-SHOCK 30TH INTERVIEW(1/2 ページ)

» 2013年03月29日 11時52分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]
カシオ計算機 戦略統括部 SP戦略部 部長 田中秀和氏

 1983年に初代G-SHOCK「DW-5000C-1A」が登場してから約10年後。1995年から2000年ごろにかけて、米国でのヒットを逆輸入する形で日本でG-SHOCKブームが起きた。

 定番モデルに加えてこのころ登場したのが、さまざまな限定モデルだ。UNITED ARROWSやBEAMSなどとのコラボ、ワールドカップ公式モデル、イルカ・クジラモデル、女性向けモデルのBaby-Gとのペアモデル「ラバーズコレクション」など、さまざまな企画モデルが発売された(参照記事)。限定モデルを買い求めるために行列ができたり、まさに“ブーム“という状態が数年間続いた。

 しかしブームにも、いつかは終わりがやってくる。さらに当時は携帯電話の普及が急速に進んだ時期とも重なっていた。特に若者の間で「ケータイを見れば時間が分かるのだから腕時計は不要」と時計離れが進んでいき、放っておいてもG-SHOCKが飛ぶように売れた時代とはまったく状況が変わりつつあった。

 「ブームが去った今、G-SHOCKをどう売っていけばいいのか? これからのG-SHOCKはどんなものにすればいいのか? 」2000年代のG-SHOCKはまさにそれが課題だったという。“ブーム後”のG-SHOCKについて、前回記事に続き、カシオ計算機 戦略統括部SP戦略部部長の田中秀和氏に話を聞いた。(聞き手:吉岡綾乃)


「次世代のGの定番」を作りたい

田中 G-SHOCKのブームというのは、1997〜98年ごろがピークで、2000年ごろには沈静化していました。社内でも「これからのG-SHOCKは何を目指すのか? どうあるべきか?」ということを非常に考えたんですね。最終的に商品企画がまとめた答えは「ものづくりに立ち返ろう。次世代のGの定番を作りたいね」ということでした。

「原点回帰」というテーマで作られた丸形G-SHOCK「G2000」(G-2000-1JF、左)、G-SHOCKでは初めて、タフソーラー+電波時計を実現した「GW300」(GW-300J-1JF、右)

――次世代のGの定番、ですか?

田中 はい。「次世代のGの定番」ということで出したのが「The G」です。2000年に「G2000」、さらに2003年には「GW300」というモデルを出しました。GW300は、さらに次のものづくりのステージを目指すということで作られた、技術的に非常に大きなチャレンジとなったモデルなんです。

 GW300はG-SHOCK初のソーラー電波時計です。ソーラー搭載モデルも、電波時計もこのころ既にあったんですが、両方を一緒に載せるのは非常に難しいんですね。一般の電波時計のレギュレーションより厳しくて、アンテナを小さくしたり素材を変えたり……。結局、電波時計のアンテナは完全に作り替え、22ミリ幅だったものを、16ミリ幅まで縮めています。

 一方、ソーラーパネルも正常進化しており、同時に(ソーラーパネルの面積が)小型化していきます。小さくなっても、従来と同じようにいろいろな機能を動かさなくてはいけない。アナログモデルなら針を動かさなくてはいけないとか、G-SHOCKは多機能なので大変なんですよね。低消費電力でいかにさまざまな機能を駆動させるか、というのがポイントになってきて、ここが技術的には非常に難しいところなんです。こうした技術的なチャレンジを経て、GW300ができました。

初代モデル(DW-5000C)のデザインを継承した「GW-M5600」。ただし中身は当時(2008年)のハイエンドで、マルチバンド5+タフソーラーとなっている

――「定番を作る=技術的なチャレンジ」というのが、なんだか非常にカシオらしいと感じます。

田中 そうですね、定番ということでは5600系もそうです。5600のサイズや厚みを変えずに、中身は最新のものにしようというチャレンジもしていました。2002年にはタフソーラー搭載のG5600を、2005年には電波ソーラー搭載のGW-M5600を作っています。5600はG-SHOCKの中でも小型のモデルなので、この中に最新技術を入れ込むというのは、非常に技術的に難しい。

 G-SHOCKでは、実はいまだに初代モデル(注:5000系+5600系)が売上ナンバーワンなんです。海外だと6900系が強いですが。なので、どちらの定番モデルもデザインやサイズを変えずに電波ソーラー化した最新モデルを作ってきました。初代は本当に強い。G-SHOCKを30年やっているわけですが、「5000(初代G-SHOCK)をいかに超えるか」というのは、羽村(注:開発スタッフがいる羽村技術センターのこと)では今もテーマなんです。

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