転換点となったG-SHOCK、カシオはスマートウオッチを作るのか――増田裕一さんG-SHOCK 30TH INTERVIEW(3/5 ページ)

» 2013年11月27日 18時15分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

「○○マン」シリーズの第一弾は「フロッグマン」だった

――ほかにもありますか?

増田: あとは……僕にとってはフロッグマンです。G-SHOCKの「なんとかマン」というシリーズで最初のがこれです。G-SHOCKのスタートから企画にいて、5900も仮説を立てて自分で作り、結果的に当たった。自分が直接、商品企画に関わっていたのがこのフロッグマンまでなんですよね。

初代フロッグマン「DW-6300」、1993年発売

――一番初めのフロッグマンというと、「DW-6300」ですね。

増田: これはね、面白かった。ちょうどG-SHOCKの5900系が日本で売れ始めたころだったんですが、うちの役員が誰も信じなかったんです。「5900が売れてる? そんなこたあねえだろう」と(苦笑)。今まで日本で売れていなかったG-SHOCKが突然売れてると言ったところで、誰も信じない。

 あの当時は、役員が集まるような会議にはわれわれは出られませんからね。なので営業の部門長に企画書を託したんです。「こういうユーザーが5900を買っている、G-SHOCKにはこういうチャンスがある。宣伝のやり方を変えればこうなるんじゃないか?」そういう企画書を書きました。あのときの企画書、まだ持っていますよ(笑)。それを営業部長に渡して役員会議に出してもらったのですが、持っていく部長自身も、まだ半信半疑というか、実感が全くわいていなかったみたいですね。

――営業部長ですら、そうなんですか!

増田: 営業の(売上)数字としてハッキリ上がったわけではなくて、現場でそういう声が出ている、というレベルですから。結局企画書は持って行ったんですが、そのときの会議はなんだか分からないうちに終わっちゃった。

 しばらくして、ある役員が初めて気づいた、「売れる」と認識し始めたんです。自分の子供に「お父さん、G-SHOCK買って」と言われたらしいんですよ。それで初めて気づいたという……。それでようやく会社もG-SHOCKが売れていると認識した。その後はもう、とにかく勢いがある。出しても足りない。そのうちに社長だったと思うんですが、G-SHOCKをもっと広げろという命令が出たんです。「でも、G-SHOCKを広げるってどうやって?」と。それまでずっと(G-SHOCKの商品企画を)やっていたから、僕のところに話が来たわけです。いろいろ悩んだ結果、一つ考えたのが、ダイバーズウオッチだったのです。

――海に潜る人のための時計ということですか?

増田: そうです。日本は毎年、4月や夏になると各社からダイバーズウオッチというアナログの腕時計が出てきます。これはダイヤルのついたもの、レジスタリングって呼んでいます。それを毎年各社が売り出すのが定番なんですね。ダイバー向けの腕時計、あのマーケットを取ろうと思いついた。

最新のフロッグマンは「GF-8230E-9JR」。30周年記念モデルということでライトニングイエローのカラーが特徴。左右非対称なデザインはそのままだ

――G-SHOCKでダイバーズウオッチを作ろうと思ったのですね。

増田: そう。でも「G-SHOCKダイバー」とかだと、アナログになっちゃうんですよ。ダイバーズウオッチというのは、他社はアナログなんですね。同じような意味で他に何かいい名前はないか。コンセプトはどうしよう? と、ある後輩と一生懸命考えた。

 最初は彼も僕の考えがよく分かっていなかった。何したいか分からないと言うのです。「実はダイバーのマーケットを取りたいんだ。でもダイバーでアナログじゃ面白くないでしょ?」と話していたら彼が「外国の海軍で、潜水する特殊部隊をフロッグマンと呼ぶよ」と言うのです。

――なるほど。

増田: 「それいいじゃない!『G-SHOCKフロッグマン』って歯切れもいいよね」と、それで名前が決まりました。せっかくだからファン(fun)の要素を入れようと。フロッグマン、そのまま訳したらカエル男だから、カエルがタンクを背負って潜る絵を裏に入れたんです。それが最初なんです。

 出してみたら営業のマーケティングも上手くて、それが動いた(売れた)。このあたりからですね。G-SHOCKを企画するときは、究極のシーンの中で、そのG-SHOCKはどういう性能を発揮すればいいのか? を考えるという作り方をするようになってきました。

――海の中という究極のシーンで必要な性能というと?

増田: フロッグマンは左右対称じゃなくて、こっち側に偏芯しているでしょ? 潜水士は、潜って作業をしますよね。船体の下に潜って上を向いて作業をしたり、自分の体を支えたり、という場合手首を曲げますが、その時曲げた手の甲に時計が当たらないように……という理由で偏芯しているんです。一つ一つ、そういうことを考えながらデザインしていきました。

高温多雨のジャングルなど、極限の環境下でサバイバルする、レンジャーやレスキューの使用を想定して作られた新モデル「RANGEMAN」

――「究極のシーンを想定したG-SHOCK」は今も続いていますよね。最近だと、レンジャー部隊の人も使えるような「RANGEMAN(レンジマン)」とか。

増田: そうです。究極のシチュエーションを想定して考える、というG-SHOCKの作り方です。エベレストの頂上に持っていっても動くとか、泥の中に入れても生きている時計とか。究極の中でどんな性能が必要なのだろうか? デザインがどう生きてくるのだろうか? と考えながらやっていました。その後のなんとかマンシリーズは、名前はけっこうめちゃくちゃだったんですけどね(笑)。泥の中で動くのは、マッドマン(泥男)。泥の中でスイッチを押す時に、スイッチのすき間から泥が入らないようなデザインになっているんです。マッドマンは何? モグラか? じゃあ、モグラの絵を入れよう……なんて、楽しんで作っていました。

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