パイロット不足で国内LCCが大量欠航――その背景にあるものは?:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(1/3 ページ)
ピーチ・アビエーションやバニラエアなど国内LCCでパイロット不足が深刻化し、相次いで運航中止に追い込まれる事態が続いている。その背景では、何が起こっているのか?
ピーチ・アビエーション(以下ピーチ)やバニラエアなど国内のLCCでパイロット不足が深刻化し、相次いで運航中止に追い込まれる事態に陥っている。待遇面や労働条件で大手に劣るLCCが必要な人員を補充するのは決して簡単なことではなく、当面は「視界不良」が続きそうだ。計画していた便の大量欠航が続いている背後では、はたしてどんなことが起こっているのか?
新規採用の失敗は運航中止の理由にあらず
成田空港を拠点とするANAグループのバニラエアが2014年5月中旬、機長不足を理由に6月の成田から覇線と新千歳への2路線の一部で154便を欠航すると発表した。関西空港を拠点とするピーチも4月、パイロット不足を理由に5〜10月で最大2128便の減便を決めている。国内LCCの残る1社、JALグループのジェットスター・ジャパンも同様だ。関空の第2拠点化にともない6月から関西/那覇、関西/成田、成田/福岡など5つの路線で増便を予定していたが、準備が間に合わず計画延期を余儀なくされた。
こうした状況について、バニラエアでは「本来26人の機長が必要だったが、後発組で実績がないため採用する力が弱く、病欠や退職も出て機長3名が不足することになった」(石井知祥社長)とコメント。ピーチも「パイロットの新規採用が計画どおりに進まなかった」ことと「現役機長の病欠」の2つを理由に挙げている。
国内には現在、約5700人のパイロットがいるが、2022年には約7000人が必要になるとの見通しがある。エアライン各社は1980年代後半のバブル期に大量のパイロットを採用したものの、バブル崩壊後の1990年代には一転して採用を抑制。2008年のリーマンショック以降は、採用数はさらに激減した。その結果、パイロットは40代をピークに30代、20代と若くなるほど数が少なくなっているのが現状だ。2030年には現在中心となって活躍している40代の機長らが大量に定年を迎え、パイロット不足の深刻化が懸念されている。
このいわゆる「2030年問題」は、確かにLCCも含めた業界全体の重要課題であることは間違いない。2030年問題については別の機会に改めて考察するが、私がここで言いたいのは、今回のLCCの大量欠航はそこに原因があるわけではないということ。パイロットの新規採用がうまくできなかったのなら、もっと早くに運航計画を見直せたはずだからだ。
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