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テクノロジー系のマーケテイングにおいて、特に欠けているものの一つに市場分析がある。そういうことを言うと“市場を見てばかりいては、独創的なものは創造できない“と言う人が出てくることが多い。(アップルコンピュータの元チーフエバンジェリストだったガイ・カワサキ氏などは特に声高にさけぶのか…?) YES、確かに独創的な製品は、顧客の声を聞いてだけいても出てこないかもしれない、しかし市場を見なくては”売れる“商品は作れない。アップルは確かに独創的な商品を作ってブランドを築き上げたが、売れたのは市場を良く見ていたマイクロソフトという話はもう耳にタコができていることだろう。それでもなお、ここで繰り返して市場分析をすべしといいたい。なぜなら、耳にタコができていても市場分析をしていない、もしくはちゃんと市場分析をすることがどんなことかわかっていない企業が、山ほどあるからである。 そもそもどんなときに市場を見る必要があるだろう。例えば以下の4ステージで考えてみよう:
まず問題なのは3、4の段階でしか市場分析をしていない例が多いことである。市場分析は本来1、2のステージから必要である。1から4の段階で変わるのは分析の精緻さであり、自分がどんな市場に対して研究・開発をしているかの分析は全ての段階ですべきである。1、2のステージで研究をする方も少なくとも以下のような基本的な考えは押さえておいていただきたい。 市場分析で最初に必要なのは、市場の定義である。またまた当たり前のことを…と言う皆さんの声が聞こえてきそうだ。しかし、わかりやすく消費財の例で言えば、ハンバーガーチェーンA社にとって分析対象とすべき市場を、ハンバーガー外食市場とするか、牛丼やなども含めてファーストフード市場とするか、コンビニエンスストアでのおにぎり・お弁当までふくめての中食(なかしょく)市場とするかで、市場分析の結論はずいぶん違ってくるのではないだろうか? 市場定義をするときのポイントの一つは、顧客のニーズから逆算して考えることである。自社が提供する商品・サービスが満たすニーズと同様のニーズを提供している商品・サービスは何かという視点で考えてみよう。二つ目のポイントは、その定義を最も狭くと最も広くの2種類の幅で考えてみることである。一度は最大の定義で考えてみないとチャンスを見失う。デジタルカメラを1993年に最初に開発したのはコダックだったが、彼ら(特に米国本社)にはPCカメラ分の市場しか見えていなかったため組織的にこの商品に注力することはなかった。デジタルカメラの市場を勝ち取ったのは結局、キヤノンなどの日本メーカーだった。一方、市場を最小の定義で市場を見ておかないと、過剰な投資への歯止めが利かなくなる。 市場の定義ができたら、マクロ(市場に影響を与えるものは何か)とミクロ(市場そのもの)の2つの視点で市場を分析してみよう。マクロの分析は通常PESTと呼ばれるフレームワークで考える。最初のPはPolitics(政治的要因)を意味する。通信関連サービスなどでは基本動作として政府規制が市場にどのような影響を与えるかを考察するだろうが、それ以外でも政治的な要因が、市場環境に影響を与えるケースは多い。 例えば、米国のオンラインワイン販売サービスで一時全米でトップサイトになったネットコンテンツ社(サービス名:バーチャルヴィンヤード)は、既得権益者であったリアルの酒販店のロビー活動で州を越えるワイン販売に税金をかけられたことにより事業売却の憂き目にあった。 2つめのEはEconomy(経済的要因)であり、景気動向が当該市場に、どのような影響を与えそうかを考えることである。3つめのSはSocial(社会的要因)で、人口動態の変化などである。例えば、今のゲームソフト市場はゲームのコアユーザー層が年をとってゲームに割く時間が無くなったことによる影響を大きく受けている。TはTechnology(技術的要因)のことで、サーベイチャンネルの読者の皆さんに説明する必要はないことと思うが、現在自社技術が狙っている市場に影響を及ぼす新しい技術は何か、それが実用化されるスピードはどのくらいか、その場合自社の技術・サービスにどのような影響がありうるか…を考えておくことは重要である。技術系ではない産業では、この技術動向が市場に及ぼす影響を見落とすことが多いので、あえてマクロ分析の重要要素として指摘されている。 統計と自分の目ミクロの市場分析に何をつかうかというと、まず思い浮かぶのが統計であろうが(後日で統計数字の見方などは説明する)、同時に自分の目で確認するという作業も同様に大事である。 市場分析で提示されている数字はかならずその計算根拠を確認するのは大前提だが、その根拠をさらに自分の身の丈で考えられるように因数分解し、それを自分の目で確認することにより市場分析はバランスの取れたものになる。前述の3、4の段階(商業化準備中以降)での市場分析にはこれが絶対必要である。例えば、2000年ごろに大手コンサルティング会社がインターネットによるB2B市場規模が、2005年に約110兆円となり、そのうち40兆円近くがeマーケットプレイスになるという統計予測をだしていたことを覚えておられる方も多いかと思う。 これを見て文字とおり雨後のたけのこのようにB2B eマーケットプレイスが乱立し、その多くが今は残っていない(筆者も実はそのたけのこの一つにのって苦い経験をした…)。 現在も堅実にビジネスを続けているあるB2Bマーケットプレイス企業も設立は2000年ごろであるが、統計の因数分解と自分の目でダブルチェックを行い、初期投資を相当おさえていたという。彼らは、その統計の2000年時点でB2Bが21兆6000億円、eマーケットプレイスに関しては2000億円といところから見始めた。その統計の自分が狙っている業界の規模はその時点で80億円程度であったが、その会社は統計の作成元に計算根拠を聞き(それすらしない企業がほとんどである)その売上計上の前提が商社的な前提であること、どのぐらいの利用率を前提にしているかを聞き、次にその統計がカバーしていると思われる中で、自社が想定している顧客数社に直接ヒアリングをして、その商社的売上から粗利がどれだけ取れるか、現場で想定されている利用率などを確認した。 その結果3年後、5年後に自社が見込める潜在市場はその統計から初期に読み取った数字の十数分の1であるとして、投資計画を控えめに変更したという。 今回は市場分析の基礎をお伝えしたが、次回はミクロの市場分析に際しての顧客マッピングなどをお話する予定である。 Copyright c 2003 Jusuke Ikegami. All Rights Reserved.関連記事 第1回 マーケティングパワー 関連リンク OPINION:ニッセイ・キャピタル [池上重輔,ニッセイ・キャピタル] サーベイチャンネルは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、ソフトバンク・アイティメディアの他、サーベイチャンネルコーディネータ、及び本記事執筆会社に提供されます。
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