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2004/02/20 00:00:00 更新

e-biz経営学
集積と差別化戦略

今日のe-biz経営学では、経営学とあまり関係なさそうな、焼物・陶磁器の話から、企業組織の集積と競争原理についての研究を、特に、Baum and Haveman(1997)のマンハッタンのホテル産業の集積に関する発見をレビューしながら紹介していく。

 寒い日が続いていますが、みなさん、お元気ですか? 私の住むつくば市は、気温自体はそれほど低くなりませんが、いわゆる「筑波おろし」と呼ばれる筑波山からの強風が吹き荒れ、冬は非常に肌寒く感じる日が少なくありません。このつくば市から北に1時間強ほどドライブしたところに、笠間焼で有名な笠間市があります。

 先日、この笠間に遊びに行き、ブラブラとその辺を歩いていると、笠間焼の由来、歴史についてまとめられている掲示板のようなものを目にしました。そこには、信楽の陶工の指導から江戸時代の安永年間(1772〜1781年)に始まった歴史などが書いてあったのですが、私がとりわけ興味を覚えたのは、笠間焼には笠間焼たる特徴があるのではなく、むしろ一人一人の作家の個性を尊重した自由闊達な作風が特徴である、ということでした。

 実は、私は焼物・陶磁器の知識はほとんどないので即削除可能なインターネット上とはいえ、私の名前で書いている文章にこう書いてしまう自信があまりないのですが(そもそも、焼物・陶磁器と併記して平気なのでしょうか?)、焼物・陶磁器の郷には、大きく分けて2つあるように思うのです。

 1つめは、産地の中に様々な陶工や窯元がある中、産地としての1つの大きな特徴、伝統があるタイプです。例えば、九州・有田は「白く、硬く、透明で、指ではじくと、澄み切った美しい音を立てる」磁器の産地として知られ、山口の萩焼には「萩の七化け」という、使用しているうちに肌の色合いが変化してくる特徴があるそうです。

 2つめは、産地として陶工、窯元が集積しつつも、その産地としてまとまった特徴があまり強くないタイプです。具体的な例としては、先の笠間焼、また、京都清水焼は清水で作っているから清水焼であり、清水焼としての大きな独特な特徴はなく、その産地の中で1人1人と陶工・窯元が技と美を競い合い発展してきたそうです。

 今日のe-biz経営学では、経営学とあまり関係なさそうな、焼物・陶磁器の話から、企業組織の集積と競争原理についての研究を、特に、Baum and Haveman(1997)のマンハッタンのホテル産業の集積に関する発見をレビューしながら紹介したいと思います。

 企業組織の集積とは、異業種、もしくは同業種の企業組織が特定の地域に多く密集することを意味し、異業種間集積の例としては、東京や大阪といった大都市における都市集積が挙げられ、一方の同業種間集積の例としては、半導体のシリコンバレー、バイオテクノロジーのサンディエゴ、自動車産業の愛知県などの産業集積が挙げられます。後者の同業種間集積が発生にする一般的な理由には、

  1. 集積することにより、原材料の調達が容易となるため。
  2. 集積することにより、高品質な労働市場に対するアクセスが容易となるため。
  3. 集積することにより、知識や情報が他の企業から入手しやすくなるため。
  4. 集積することにより、多くの雇用機会が生まれ、相対的に労働賃金が安くなるため。

 などが挙げられます。しかし、これらの理由はあくまでも一般的なもので、分析する産業、業種、マーケットによって集積が発生する理由は様々です。例えば、あなたは今、新しいホテルの建設を考えているとしましょう。その時、あなたが新しいホテルは既存ホテル(もしくはホテル群)の近くに建てたい(つまり、集積したい)、と思うのであれば、その理由はおそらく次の3つだと思います。

(1)インフラストラクチャーの共有が可能。(例)成田空港からのエアポート・リムジン・バスは、あなたの経営するホテルには止まらないが、近くの大きなシティ・ホテルに止まれば、あなたのホテルのお客さんにはそれほど不便ではない。

(2)需要があることが分かる。(例)あなたが開店予定地の周りを視察し、他のホテルが非常に繁盛していることが分れば、このエリアはなかなか儲かるな、と予測がつく。

(3)お客さんを呼び込める。(例)ビジネス・ホテルの集積は、集積によるシグナリング効果により、予約をしていないウォーク・イン顧客が「あのあたりに行けば、沢山あるから、たとえ1つが満室でも他がすぐ見つかるだろう」と予想することで説明できる。

 以上のような集積のメリットを考えると、あなたが新たなホテルの開店を画策しているのであれば、既に営業しているホテルやホテル群の近くに建てるのがいい、と一見思えますが、実は、そんなに単純ではないことがBaum and Haveman(1997)の研究で発見されたのです。

 彼らの研究における仮説の1つは、同業ホテルの近くに立地することで得られるメリットがある一方、同業ホテルの近くに立地することによる顧客の争奪、競争プレッシャーが起こるのではないか、というものでした。確かに、牛丼屋さんの隣に新たな牛丼屋さんができると、競争が激しくなるように、既存ホテルの隣に新たなホテルが参入すれば競争が激しくなることは容易に予想できます。しかし、競争を避けるために遠くに建ててしまえば、集積のメリットが得られなくなるのも事実です。

 Baum and Haveman(1997)の研究の大きな貢献は、ホテルが新規参入するにおいて、このジレンマを差別化によって解消していることを発見したことにあります。彼らは、ホテルが立地する際の大きな戦略軸には、サイズ(収容可能客数)とプライスの2つがあると考え、1898年から1990年までのマンハッタンで営業を行った全てのホテルに関するデータを分析しました。そして、「新しいホテルは、プライスのゾーンが近いホテルの距離的に近い場所に建てられ、サイズが近いホテルからは距離的に離れた場所に建てられる」、逆に言えば、「新しいホテルは、大きさが異なったホテルの近くに建てられ、値段の異なったホテルからは遠くに建てられる」ということを発見しました。

 なぜこのような現象が発生しているのでしょうか? 2つの戦略軸のうち、1つ(この場合ではサイズ)を他の近隣ホテルからを遠ざけることで、差別化がはかられ、競争プレッシャーが弱まります。その一方、もう1つ(この場合ではプライス)の戦略軸を他の近隣ホテルに近づけることで、集積の恩恵を受けることができるようになります。もし、プライスもサイズも全く違ってしまえば、例え他のホテルが近隣にあったとしても、客層が全く異なってしまうために集積のメリットを受けることが難しくなってしまうのです。つまり、集積と競争のジレンマを、2つの戦略軸のバランスをうまくとり、差別化と同質化の原理を用いて解消し、競争を回避しながら集積の恩恵を受けるという参入における行動パターンが存在することが明らかになったのです。

図

 では、彼らの発見と、若干の他の知識を付け足して、最初の焼物・陶磁器のケースについて、1つ仮説を考えて見ましょう。産地としてまとまった全体的な特徴があるような産地では、その産地内での競争が非常に激しく、陶工、窯元の生き残りへの競争は過酷である。しかし、その結果、生き残った陶工、窯元のレベルは非常に高くなり、他の産地に対して高い競争的優位性を持つ。従って、全体的な特徴があるような産地は、他の産地間との競争では優位に立つことができ、全国レベルでのマーケット・シェアは高くなる。

 一方、産地としてまとまった特徴がないような産地では、その産地内での競争がゆるやかであり、その結果、陶工、窯元の淘汰も激しくなく、新規参入も多い。しかし、その結果、相対的には他の産地間との競争では優位にたつことが難しく、全国レベルでのマーケット・シェアは低くなる。自分で言うのもなんですが、なかなか面白い仮説だと思います。実証検証したい方、私と一緒にデータを集めて検証しませんか? ご連絡、お待ちしております。

Baum, J. A. C. & Haveman, H. A. 1997. Love thy neighbor? Differentiation and agglomeration in the Manhattan hotel industry, 1898-1990. Administrative Science Quarterly, 42: 304-338.

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関連リンク
▼OPINION:筑波大学 e-biz リサーチ・コンプレックス

[三橋平,筑波大学]

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