ITmedia NEWS >

自力でWeb2.0へとたどり着いた中古車店【連載第2回】ネットベンチャー3.0(3/3 ページ)

» 2006年08月04日 10時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

Web2.0に自力でたどり着く

 その骨格の最初の柱になったのは、「集合知」モデルである。クインランドではそのコンセプトを「NIA-MUC(ニアマック)」と呼んでいる。「車を人が買うときの情報源は3つしかない。まず自動車メーカーが流す広告やテレビCMを見て、その車に興味を持つ。それからたとえば自動車評論家の記事を読むなどしてより専門的な知識を仕入れ、さらに近所に住んでいる人に聞いたり、ネットの掲示板で仕入れるなどして、その自動車に実際に乗っているユーザーの声を集める。つまり専門家のアドバイスと先行ユーザーの声、それに企業が提供している製品カタログや広告。この3つの情報が集まることで、初めてユーザーの意志決定プロセスが動き出す」(吉村さん)。つまりさまざまな人々の知の結集をうまく取り入れることによって、サイトを訪れた人のコンバージョンレート(購入率)を上げることができるのではないかと考えたのだ。

 このNIA-MUCというコンセプトを彼らが作り上げたのは、2000年である。今でこそユーザーの声や専門家の声――すなわち知を集めることによって正しい情報を生み出すという集合知モデルは当たり前になりつつあり、NIA-MUCの話にもさほど新鮮味はないように思われるかもしれない。だが2000年というブロードバンドもWeb2.0という言葉もなかった時代に、このモデルに自力でたどり着いたその試行錯誤ぶりは、非常に興味深い。

 そしてこのNIA-MUCでユーザーの声を掲示板によってコミュニティー化したことで、ページビューが大幅に増える結果にもなった。当初、掲示板の組み込みには「荒れるんじゃないか」と不安視する声が社内にも少なくなかったのだが、技術担当の平澤さんが「「インターネットは平等な人々しかいない自由な世界で、コミュニティーこそが本質なんだ」と力説し、コミュニティー化できないウェブは消え去るしかない、と説いた。そうやって掲示板をPUPUに搭載してみると、ユーザーはやはり専門家の声や大企業の宣伝文句よりも同じユーザー同士の声を最も信用するようになり、自己増殖的にコンテンツが増え、そして連動してページビューも増えていったのである。今でいうCGM(Consumer Generated Media)である。

 そしてクインランドが考えたウェブの第3の骨格は、カスタマーサポートだった。先にQcamのところで紹介したコンテキストデータに基づいて顧客の行動パターンや志向を徹底的に分析し、顧客が行動を起こす前に先回りしてサポートを行うというものだ。いわばデータベース・オリエンテッドなCRM(Customer Relationship Management)であり、Web2.0で言われるデータベースの本質に近い考え方である。

 クインランドはこのPUPUでの成功体験をもとに、上記の3つの骨格をビジネスモデル化し、DMES(Digital Marketing Engineering Service)という事業を立ち上げた。要するに集合知とコミュニティ、コンテキストデータベースの3本柱をもとにして、企業のマーケティング支援を行うというB2Bビジネスである。

 いわば自力で、Web2.0ビジネスへとたどり着いたのだ。そしてこのビジネスをめぐる話は、非常に興味深い。以下、次回に続く。(毎週金曜日に掲載します)

佐々木俊尚氏のプロフィール

1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。

著書:「徹底追及 個人情報流出事件」(秀和システム)、「ヒルズな人たち」(小学館)、「ライブドア資本論」(日本評論社)、「検索エンジン戦争」(アスペクト)、「ネット業界ハンドブック」(東洋経済新報社)、「グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する」(文春新書)など。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.