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» 2007年01月26日 12時00分 UPDATE

ビジネスシーンで気になる法律問題:RMTは合法ビジネスになるのか?

オンラインゲームで話題になるのはRMT(リアルマネートレード)。電子マネーやポイント制度などオンライン上の経済取引を考える上でも重要なヒントがあるはずだ。

[情報ネットワーク法学会, 中崎尚,ITmedia]

 2006年は「運営会社従業員によるゲーム内通貨の不正取得」など、オンラインゲーム上の不正にまつわる事件がITmediaをはじめとしてIT系のニュースサイトで広く報じられた(2006年7月の記事参照)。一見すると、将来、オンライン上の通貨やアイテムも、法律上の“財物”として認められる日も近いのではないか? という気すらしてくる。

 プレイヤーとして参加するだけのオンラインゲームを本連載で取り上げることに若干の違和感が残る方もおられるかもしれない。だが、ここで紹介する観点は、電子マネーやポイント制度などオンライン上の経済取引を考える上でも重要なヒントがあるはずだ。今回は、刑事法的な側面から見てみよう。

アイテム詐取事件を振り返る

 今回例として取り上げるのはオンラインゲーム「メイプルストーリー」だ。事実関係を確認する意味で振り返ってみよう。メイプルストーリーのアイテムには、プリペイド式(払戻不可)の「NEXONポイント」で入手できる「ポイントアイテム」と、ゲームをプレイする過程でしか入手できない「ゲーム内アイテム」の2種類である。「ゲーム内アイテム」は入手が困難であるため、プレイヤー同士が「プレゼント」機能を利用して「ポイントアイテム」と「ゲーム内アイテム」を交換するといった取引が行われていた。

 ところが、「プレゼント」機能は、文字通り相手に贈答品として「プレゼント」するための機能であり、経済的な交換までを想定したシステムではない。そのため、このシステムを悪用しようと考えたプレイヤーが、自分だけアイテムを受け取り、相手にはアイテムを渡さないというトラブルが頻発した。

裁判所の判断

 事件の犯人もこの手法で「ゲーム内アイテム」を受け取ったが、「ポイントアイテム」を支払わないままログアウトしたという。被害者はもらえるはずの「ポイントアイテム」を受け取ることができないという被害を被った。

 裁判ではこの点が詐欺罪に問われた。この犯人は追跡されぬよう、他人のIDでログインしていたため、不正アクセスの罪にも問われた。犯人は2006年9月に逮捕され、11月には早くも「被害者は現実のお金を払ってアイテムを購入しており、ゲーム内での遊戯行為とはいえない」として、不正アクセスとともに詐欺についても有罪判決が下った。

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今までのアイテム取引がらみの詐欺事件とどこが違うのか?

 ゲーム内アイテムの現金取引にまつわる詐欺事件はたびたび報道されているが、「メイプルストーリー事件」以前は、騙し取られた対象は現金や電子マネーなどの一般社会で経済的価値が認められているものだった。他方、「ゲーム内アイテム」は直接にはゲーム内でしか役に立たないヴァーチャルな存在でしかない。法律の世界では、かなりざっくばらんに言うと、形あるものと形をもたないもので取扱いが異なることが多い。

 形を持たないものは、法律で保護するべき「財産上の利益」にふさわしいものと認められなければ、そもそも詐欺罪は成立しない。ゲーム内のアイテムや通貨がふさわしいといえるかは、まだまだ議論の途上である。

 ゲーム内のアイテムや通貨が、原則、払戻が許されていないのは、電子マネーと類似している。反面、現金に劣るとはいえ電子マネーで多種多様な場面でサービスを購入できるのに対し、ゲーム内のアイテムや通貨ではゲーム内のサービスしか受けられず汎用性に欠け、保護の必要性は小さいようにも見える。この事件では、裁判所が「ゲーム内でサービスを受ける権利」を「財産上の利益」にあたるとして詐欺の成立を認めたところが特徴といえる。

ビジネスにどう活かすか?

 もっとも、この事件で裁判所が用いた論法が将来、ほかの裁判でも踏襲されるのか、またほかのオンライン内のサービスやアイテムにも当てはまるのかはまだまだ議論が必要だろう。

 例えば、「メイプルストーリー事件」からさかのぼることわずか2カ月前に犯人が逮捕された「運営会社従業員によるゲーム内通貨の不正取得」事件(2006年7月の記事参照)では、結局犯人は不正アクセスの罪に問われただけで済んでいる。不正アクセスの罪は、オンラインゲームにおいてもアカウントの盗用で比較的頻繁に立件されている点で取り締まる側にも蓄積があるし、「財産上の利益」のような困難な論点も少ないので、処理しやすかったのだろう。

 ことが刑事の話である以上、基準の確立に向けては将来の裁判例を踏まえた慎重な議論を積み重ねる必要がある反面、オンライン内のサービスやアイテムの取引を積極的に法律で保護ないし規制すべきという要請の高まりも見逃せない。ただ、刑事法上の議論が解決をみるためにはなお相当の時間を要すると思われることからすれば、ビジネスパーソンとしては、刑事法での議論をアタマの片隅におきつつも、利用規約やほかの法律による対応、そして技術的対応をまず検討するのが現実的だと思われる。

 実際にメイプルストーリーでは、犯人逮捕前だが事件発生後の2006年8月にはNEXONポイントとゲーム内アイテムを交換できるシステムが実装された。これで、プレイヤーは「NEXONポイント」を使って「ゲーム内アイテム」の購入が可能になったのだ。こうした状況を、運営会社公認のRMTシステムの導入と評する向きがあるのも事実だ。RMTについては議論の多いところであるが、次回は、RMTを含めてオンライン上の経済取引について、刑事法以外の側面からながめてみたいと思う。

st_ho02.jpg メイプルストーリーでは、犯人逮捕前の2006年8月にNEXONポイントとゲーム内アイテムを交換できるシステムを実装

情報ネットワーク法学会とは

情報ネットワーク法学会では、情報ネットワークをめぐる法的問題の調査・研究を通じ、情報ネットワークの法的な問題に関する提言や研究者の育成・支援などを行っている。

筆者プロフィール 中崎尚(なかざき・たかし アンダーソン・毛利・友常法律事務所所属)

サイバー・ロー、知的財産法や不動産や証券などのアセット・ファイナンスなどを担当する。なかでもコンピュータ・通信を中心に技術分野の事件やインターネット特有の問題に注力している。


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