特別編:新人諸君――「両親をだませ」樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

「両親をだませ」こそ会社に入ったばかりの新人諸君には大事なキーワード――。アイデアマラソン研究所の樋口さんによる連載特別編。コミュニケーションの“極意”を伝えます。

» 2007年03月30日 21時42分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 とんでもないタイトルだと呆れながらクリックしてくれたのではないか。公序良俗に反する? とんでもない、「両親をだませ」こそ会社に入ったばかりの新人諸君には大事なキーワードなのである。

“ウソ”が両親を元気にさせる

 会社で「新人」と呼ばれることは、何はともあれ「無事に就職した」ということである。そのことを一番喜んでいるのは両親だ。「ああ、もうこれでひと安心」と親は思うわけだ。同時に、今まで「子供だ、子供だ」と思ってきた息子や娘が、社会に出て行くという一抹の寂しさを感じてしまう瞬間でもある。

 そうした両親を、そのままにしておいてはいけない。ある程度の緊張感やストレスは生活の張りとして必要なのだ。お勧めは、エイプリルフールに両親を仰天させる方法である。

 筆者が若い部下たちに勧めていたのは、両親を元気にさせるウソをつくことだった。エイプリルフールの朝、外から両親に電話する。

息子(娘) お父さん(お母さん)、悪い、お母さん(お父さん)に内緒だよ。絶対に言わないでほしい。実は、彼女がいるんだ(彼氏がいるの)。そ、それが……

お父さん(お母さん) どうしたの?

息子(娘) ……

お父さん(お母さん) どうしたの!

息子(娘) そ、それが、言いにくいんだけれど……

お父さん(お母さん) どうしたの!?

息子(娘) ……できちゃった

お父さん(お母さん) えっ、何が、まさか

息子(娘) そう

お父さん(お母さん) どういうこと?

息子(娘) そういうこと!

お父さん(お母さん) いったい、どうするの……

息子(娘) 今晩、外で時間ない?

お父さん(お母さん)  いいけど

息子(娘) じゃ、○○で▲時に。お父さん(お母さん)も一緒だよ


 これで両親にとって「あなたに会うこと」が最優先事項となる。後は夕方、両親を夕食に呼んで普通に食事をする。食が進まず両親の顔面がこわばっていれば、先にエイプリルフールであることを白状する。両親は、ただただ呆れるだろう。もちろん食事代は、あなたが払うのだ。

 これで両親は3カ月は、心の中に暖かいものを感じ続けることができるはず。いったん、お先真っ暗の“トラブル”に落とし込んで、それから元に戻すだけで幸せを感じることができるのが人間というものだ。今なら、これは振り込め詐欺対策のトレーニングにもなるかもしれない。

ケーススタディ「樋口家の場合」

 私は精一杯、両親を毎年だまし続けた。わざわざ海外から電話してだましたこともある。両親は毎年3月31日になると、電話機の前に「明日は、エイプリルフール」と書いて貼っていたほどだ。

 ある年のエイプリルフールの日、朝の6時。我家に国際電話でファックスが入った。受け取ると、3年前からオーストラリアに留学している息子(三男)の学校の担任教師から、学校のレターヘッドで、

「両親殿、まことに残念な報告をしなければいけませんが、お宅の息子さんは、寮内の部屋でタバコを吸い、ポルノ写真を保持しているところを発見されました。これは重大な規則違反であり、本学としても、許せない問題であります。退学を含めた懲罰委員会に掛けられる可能性がありますので、前もってご連絡しておきます。  担任 署名」


とあった。まさか、これがウソだとは思えないほどのデキだった。国際ファックス、学校のレター用紙、担任の署名、ポルノという高校生らしい(?)内容。完璧に私は引っかかった。

 慌てた私は、国際電話で担任の先生の自宅に電話した。そしたら、ケロッと本人が出てきたものだから、「あー騙された、騙された。クソー、やりやがったな」と、私は地団駄踏むことになったのだ。日本の実家にいた長男と次男は、「よくやった。父ちゃんをだますとはすばらしい。最高だ」と大歓声。三男の学校でも、これは大変な評判となったという。

部長のウソ

 しかし、私もやられっぱなしではない。同じ年のエイプリルフールに、とっておきの集団計画を立てていた。

 4月1日は、会社では新しい期の初め。営業部長の私は、部内全体会議を朝一番に召集する予定だった。集合した人数は52人。大会議室に並んだ部員たちの前で、「皆さん、今日は新しい期の始まりです。本部長より連絡がありましたので発表します。今日をもって、当部は3つに分割されます。1つは、隣の部に吸収、1つは技術部に異動、残りは地方に転勤です」(もう、ここで全員が大きな口をポカンと開けた)「私自身も発令がありますので、今から本部長のところに行ってきます」と言い切って、私は会議室の外に出た。トイレに行って、帰ってきたら部内は大騒ぎ。「聞いていない」「何てことだ」とワーワー騒いでいた。

 私は、「議題を書いたメモを開いて、その日付を見てください」と言った。そこには「4月1日、エイプリルフール」と書いてあったのである。「このクソ忙しい時に、ウソとは、信じられない」と怒る皆。ポケットマネーで買ってきたドーナツを50個配り、私が謝ったのはいうまでもない。それから何年経っても、「この怨みを晴らす」と言っていた部下がいたが、その話はまたの機会にでもご紹介しよう。

今回の教訓

親を、上司を、部下を愛せ。緊張感をもって愛せ。そのための重要なツールがウソなのである


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法の考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学(いずれも非常勤講師)、企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)、アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。ものづくり例は、「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」(ぺんてる、アイデアマラソン研のコラボ、JustMyShopにて発売中)。公式サイトは「http://www.idea-marathon.net/」。


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