ディスカッション──企業のイノベーションを考えるイノベーションの現場から(1/3 ページ)

企業や組織がイノベーションを生み出す環境にあるかどうかの基準となることを目指して生まれた「イノベーション・テスト」。この道具を使い、実際の企業で現場で起こっているイノベーションを生み出しているのは何なのかを探る。

» 2007年11月05日 14時30分 公開
[ITmedia]
ISIFメンバー
   
神成淳司 慶應義塾大学 環境情報学部 専任講師
許斐俊充 日本ナショナルインスツルメンツ マーケティング部 部長
小野和俊 アプレッソ 代表取締役副社長CTO
楠 正憲 マイクロソフト 技術統括室 CTO補佐

 イノベーションとは何か? そして企業は、組織は、どうやったらイノベーションを起こすことができるのか。本連載では、情報処理学会イノベーティブ社会基盤フォーラム(ISIF)と共同で、実際に起こっている企業のイノベーション事例を取材しながら、イノベーションを育む環境とはどんなものなのかを探っていく。

 第1回は、ISIFの各メンバーによるディスカッションから、イノベーションとはいったい何なのか、そしてイノベーションを育む環境の目安を示すイノベーション・テストのあり方を考えていく。

左から日本ナショナルインスツルメンツ許斐氏、マイクロソフト 楠氏、慶應義塾大学 神成氏、アプレッソ 小野氏

イノベーションって何だろう?

──一般にはイノベーションという言葉はいろいろな意味で使われますが、ここではどんな意味なのでしょうか?

許斐 新しい産業ができるかどうかが、イノベーションのよりどころになるのではないでしょうか。産業が生まれる要因はいろいろあるが、思い切って言うと、まずはビジネスモデルのイノベーション。そしてイノベーションが製品という形に結実する場合、または今までのやり方が変わる場合をプロセスイノベーション。そして価格がドカンと下がることで新しい世界が開けるプライスイノベーション。この3つがあるのではないか。

ジェフリー・ムーア著『ライフサイクル イノベーション
『キャズム』の著者、ジェフリー・ムーアがイノベーションを分析する。成長市場、成熟市場、衰退市場によってイノベーションのタイプは異なり、どんなイノベーションを目指すべきかは状況によって異なるとしている。

小野 ジェフリー・ムーアの分類とけっこう似ているところもあり、おかしくはないですね。ここに(いったん古くなったものを甦らせる)再生イノベーションが入れば基本的な分類はまとまる。再生イノベーションは、メインフレームなどの例で使われるものだから、除いてしまえば、この3つで問題ないでしょう。

 産業の創出と言ってしまうと限定されてしまうのでは。非連続的な変化であれば、必ずしも(産業を)作ることに限定しないで、いろいろな場合があるのではないかな。ここ何年か政策の人々がイノベーション、イノベーションと言い始めたのは、人口が減って、放っておけば経済が縮小してしまうから、生産性を上げるしかない──という背景がある。逆にいえば、イノベーションをアウトカムとして非連続的に生産性を高めることを狙っている。そのやり方が、仕事のやり方を変えるプロセスイノベーションであることもあれば、全く新しい市場を作ることもあると思う。

小野 プロセスイノベーションで産業が生まれることもあると思うが……。

 創出とは言わないでしょうね。

許斐 例えば、Googleなどのオンライン広告とか、Amazonなどのロングテール戦略など、今まで物理的なものとしては売っていたものが、オンラインで流れるようになったとか、規模感が変わったから産業構造が変わるとか、プレーヤーが変わるとか。産業創出ではないかもしれないが、市場創出には近いかもしれませんね。

神成 プロセスそのものが新しいマーケットとなるだけであって、産業という言い方をすると違うかもしれない。

 お金の面に着目すると、GoogleはほとんどAdsense/Adwordsで儲けているわけだけど、そのアイデアは彼らが生み出したものではないわけです。ではGoogleのイノベーションはどこにあるのか。スケールアウトするインフラだとか、検索アルゴリズムにあるのか、それともそういう仕組みとマネタイズ(儲けること)を融合させたところにあるのか、人によって意見が違ってくるのではないでしょうか。

許斐 オンライン系のイノベーティブな事業は、それに近いものが多いと思う。AmazonにしてもiTunes Music Storeにしても、ビジネスそのものはこれまでも存在していたが、それをオンラインに載せてきた。既存の事業やマーケットがリーチできなかったところに、リーチできるようになったところに特徴がある。

慶應義塾大学 神成淳司氏

神成 おそらく市場創出よりも非連続性のほうがイノベーションの度合いが高く、そこにイノベーションのカギがあると思う。いわゆるシステムやサービスでは、ボトムアップの機能の積み上げではない部分にイノベーションがある。似たようなサービスだとしても、プロセスやプライスのイノベーションによって、従来と非連続的な変化があったときにイノベーションと捉えるのがいいのではないでしょうか。

小野 AmazonとGoogleの場合、最初の許斐さんの分類でいうとプロダクトイノベーション。従来、営業の人がヘッド顧客を狙って動いていたところに、マイノリティーの人たちが自分で登録できるようにしたマッチングのシステムを用意するというイノベーションがあった。Amazonにしてもロングテールを掘り起こせたのは、レコメンデーションシステムや検索などシステム的な要素がある。サービスなので厳密にいうとプロダクトではないが、分類するならプロダクトイノベーションになるのでは。

 もちろんプロダクトイノベーションの中には、“カイゼン”もあるだろうし、マーケティングもある。どう分けるかは、意外と不毛かもしれない。非連続的な変化が外部から観察されるから、それを分類しようとする。我々がこの研究会でフォーカスするイノベーションの種類は、非連続性を伴ったもの。なぜなら連続的なイノベーションは、みんなどうやったらいいか分かっているものだから。

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