フリーアドレスオフィスの効果新しいオフィス環境──オフィス移転、レイアウト変更のポイント

近年では、社員ひとりひとりの座席を特定しない「フリーアドレスオフィス」が一般的になりつつある。快適かつ機能的な執務環境を作る最適なオフィスとして、多くの企業が採用しているフリーアドレスオフィス。今回は、その利点と注意点をみていこう。

» 2008年01月11日 12時00分 公開
[SOS総務]
SOS総務

 フリーアドレスオフィスは、1987年に大手建設会社で、スペースの効率的な利用方法として、社員の席を固定的にしないで、空いている席を自由に使用する試みがなされたのが始まりといわれている。日本では和製英語の「フリーアドレス」と呼ばれているが、世界中に普及した今、米国ではノンテリトリアルオフィス、シェアードオフィス、ホテリングオフィスなどと呼ばれている。

フリーアドレスの目的はオフィスコストの削減

 フリーアドレスの本来の目的は、スペースを小さくすること。つまり、個々の社員の固定したデスクを設けず、在籍者(入居人数)より少ないデスクを共用して、スペースと家具の費用を削減するという考え方だ。このため、外出することが多い営業部門やサービス部門などに広く採用されてきた。一方、これを導入することで、対象となる社員のワークスタイルを変更し、基本的には直行直帰の勤務とし必要に応じて帰社するといったスタイルも出現。効果を上げた企業では、デスクの数を7割も少なくしたという例もあるという。

 また、フリーアドレスオフィスは、組織や人事異動にかかわらず、オフィスレイアウトや情報システムを変更しなくてもよいため、運用コストが削減できる方式ともいえる。フリーアドレスオフィスにはいくつかの形態があるが、日本では、テーブル型の幅が大きなデスクを使用し、社内にいる社員が自由に場所を選んで座り、人数が多いときは一人当たりが狭いデスク幅となり、人数が少ないときは広いスペースを使えるといった「作業面共用型」が一般的となっている。

フリーアドレスオフィスの目的が変わってきた

 ところがこの数年間で、その目的が大きく変化してきている。実際に導入することでコスト以外の効果がクローズアップされるようになり、今ではこの副次的な効果を主たる目的としてフリーアドレス化をする企業が増えているのだ。それでは、いったいどんな効果があるというのかみてみよう。

 1つ目は、「コミュニケーションの活性化」だ。職位や部署を超えてシームレスにフリーアドレス化することにより、社内のあらゆる人たちのコミュニケーションができ、情報共有や知恵、知識の培養ができる。会議や打ち合わせといった形式的なコミュニケーションではなく、自然発生するインフォーマルな会話が思わぬ成果を生み出すのだ。

 2つ目は、「仕事に応じたコラボレーション」。つまり、その日の仕事に必要な人と自在にグループを組み、適当な席を選んでコラボレーションすることができるため、知的生産性向上の有効な手段であるとの認識ができてきいる。

 3つ目は、「セキュリティ対策」としての効果だ。フリーアドレスオフィスでは、毎日、席を替わるのが原則であるため、帰宅時や外出時にデスクの上に書類やパソコンを放置しておくわけにはいかない。必ず片付けてクリアデスクにしなければならない……つまり、業務外の時間はいつもデスクの上にモノがないという状態になるのだ。また、多くの書類を持つと毎日の整理整頓に手間がかかるため、書類は少なくといった意識もが芽生えるという。

 4つ目は、「リフレッシュ効果」。毎日席を替わることは、絶えず執務する環境が変わるわけであるため、無意識のうちに新鮮な気分で仕事ができる。フリーアドレスオフィスを採用した会社では、人気のある席を確保するため、早朝から出勤する社員が増えたという話もあり、働く環境が社員にとっていかに重要かというのがわかる。

フリーアドレスオフィスの導入は慎重に

 このように、一見メリットが多いように見えるフリーアドレスオフィスだが、実現するためには、「どの範囲(部署や対象者)で実施するか」「導入したときの社員の課題は何か」「組織としての課題は何か」など、さまざまな検討課題がある。以下の表に検討すべき課題をまとめたので、導入を決める前に必ずチェックしてほしい。

フリーアドレスオフィスの検討事項
導入範囲 対象部署
全社レベルで導入
拠点別に導入
離席の多い部門に導入
チームワーク部門に導入
プロジェクトチームに導入
デザイン・研究開発チームに導入
IT関連部門に導入
対象者
経営者を含む
管理者を含む
社員の導入への課題 自席がなくなることへの不安
個人管理の書類等の廃棄・収納不足
自由に出社できないことへの不満
業務効率低下に対する不安
業績・人事評価への不安
部下管理の徹底ができなくなることへの不安
連絡、伝達事項が円滑にできるかという不安
業務に集中できなくなることへの不安
固定席者との差別になる不満
組織の導入への課題 フリーアドレスに対応する組織体制
勤務体制の対応(例:直行直帰型)
フリーアドレス対象者への業務サポート体制
ITのユビキタス、モバイル、ワイヤレス等
阻害となる慣習からの脱却(例:朝礼)

 また、予定が変更になり急に帰社してきた社員や出張者など外部から来る社員の席として、タッチダウンオフィスを用意することも大切なポイントだ。最近では、課題の解決とフリーアドレスの効果の適正化のために、デスク数を減らさない、さらにはより多く配置する企業も増えているようだ。

 まずはさまざまな事例を研究し、フリーアドレスオフィスが自社のワークスタイルに適しているかどうかを見極めるところから始めたい。

POINT

▼フリーアドレスオフィスは、コスト削減以外に多くの効果があり、導入に当たってはその目的を明確にする

▼フリーアドレスオフィスの導入には、さまざまな検討すべき事項と課題があるため、早急な導入は避け、慎重にすべきである

▼フリーアドレスオフィス導入には、情報通信システム、オフィス家具など多くの投資が必要であるため、その効果を十分に見極める必要がある

▼どのようなフリーアドレスオフィスを作るかは、企業の特性によって異なる。できるだけ個性的に作ることが望ましい


『月刊総務』2007年8月号 総務のマニュアルより

執筆:社団法人日本オフィス家具協会


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