第2回 情報量は多い方が覚えやすい新入社員がやってくる──専門知識を教える技術(1/3 ページ)

「詰め込み教育をやめてゆとり教育だって? 何をトンチンカンなことやってんだか……」――。本来、「詰め込み教育」にはいい詰め込みと、悪い詰め込みがある。タフな「専門知識」を獲得できる詰め込み方とはどういう方法か。

» 2008年02月28日 20時33分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]

 私がテーマにしているのはあくまでも「社会人に対する専門知識の教育」ですが、社会人といってもその知識は「学校での教育」をベースにしている以上、「教育」問題を考えるときに「ゆとり」という単語を外すわけにはいきません。

情報量は多い方が覚えやすい

 いわゆる「ゆとり教育」が本格的に始まったのは1996年からのようですが、それ以前から「ゆとり化」の流れは確実に存在していました。実際、1980年代前半にもこの種の動きがあったことを私は自分の体験として覚えています。

 率直に言って、「詰め込みをやめてゆとりだって? 何をトンチンカンなことやってんだか……」と、当時中学生だった私は思っていました。

 問題はまったく逆だろう。詰め込みをすることがいけないのではなく、詰め込みのやり方を間違えていることが問題だ。間違った方法で詰め込みをするから覚えられないだけで、本当はもっともっと詰め込んだほうがうまくいく。「ゆとり」なんて、教師が仕事を放棄してるだけじゃないのか?

 と考えながら私は「ゆとり化」への動きを横目で見ていたわけです。ちなみにその頃私は、学校の授業をほとんど聞いていませんでした。

 その後、教育業界に関わることもなく時が流れ、20数年たったあと、思いがけず私は企業人材教育の仕事に転じていました。ちょうどそのころ目にしたのが「百ます計算」で有名な「陰山メソッド」のブームです。小学生の学力を大きく向上させた実績で知られる陰山メソッドですが、その中にこんな方法があります。

漢字の前倒し学習

小学1年生が「1年間かけて覚えること」とされている漢字80文字を1カ月で全部覚えさせる。そのために、意味のある文を作ってその書き取りと音読を繰り返し練習させる。


 「意味のある文を作る」というのは、例えば「森の上の空に月が見えます」という文です。この1文に出てくる「森・上・空・月・見」という5文字がすべて小学1年生の履修範囲なわけです。これを1文字ずつやっていくとなかなか覚えられないのに、全部組み合わせて意味のある文を作って繰り返し練習すると覚えられると言います。

 この話が私には非常に納得がいくんですね。常識的な考え方だと、「情報量は少ないほうが勉強は楽」と思われていますが、それは私の実感とは違います。確かに、無意味な情報をただ丸暗記するなら情報量は少ない方が楽でしょう。

 しかし、

  • 意味のある情報の場合、その「意味」を構成する最低限の情報量は必要

 なのです。その「意味を構成する最低限」を割り込むほどに情報を削ってしまったら、かえって分からなくなってしまいます。試しに文例を「森の上の空に見えます」としたのでは、何が「見える」のかイメージがわきません。「月」というハッキリしたフォーカスポイントがあることで、そのほかの文字がすべてつながって1つの意味を形成する、そんな関係です。これを分断してしまってはいけません。

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