不運続き大口兄弟の伝説(1/2 ページ)

和人は急に忙しくなった。ロバさんと中小企業を攻めていたオタクが倒れたのだ。原因は過労。続いて本部の査察が入り、資料作りを担当するチェッカーが精神的に追い込まれてしまった。さらに個人に営業をかけていたマザーまでも息子の怪我でお休み――。「呪われているのだろうか、この営業所は……」

» 2008年12月17日 10時30分 公開
[森川滋之,ITmedia]

あらすじ

 ビジネス小説「奇跡の無名人たち」第1部の続編「大口兄弟の伝説」――。営業所の存続をかけた営業コンテストを前にして、順調に契約数を増やしていたC市営業所。問題は、大企業しか攻める気のない「大口兄弟」のタカシとショージ。学生時代に起業して、一時は成功したものの結局は借金まみれになってしまったタカシ、口下手でバイト先を転々としていたショージ――2人とも今回の営業職で「リベンジしたい」のであった。


 和人は急に忙しくなった。ロバさんと中小企業を攻めていたオタクが倒れたのだ。原因は過労だった。

 ロバさんと和人は2人で見舞いに行った。消毒液と床のタイルのにおいが入り混じった古い病院だ。オタクは1週間の安静とのことだった。自分はどうも放任し過ぎらしい。和人は管理職失格だなと自分自身を責めた。

 オタクは点滴を受けていたが、意識はしっかりしていた。「この大事な時期にこんなことになって、すみません」。ベッドに横たわったオタクが謝った。「謝ることなんかない。こっちこそそんなに疲れていたとは気づかずにすまなかった」。和人が謝り返した。ロバさんは、ただ黙って2人のやり取りを聞いている。

 オタクに事情を聞くと、最近、資料作りを担当するチェッカーの手が回らなくなってきて、その分自分で資料を作っていたのだという。「チェッカーって化け物ですよ。彼女を見てると簡単にできるって思ってたんだけど、ぼくがやるとあんなに時間がかかるなんて思わなかった」

 確かにチェッカーの資料作りは速くて正確だ。でも、どうして急に手が回らなくなったのだろう。

 「大口兄弟なんだな」。ロバさんが重い口を開いた。

 「え? 何が?」

 「最近、大口兄弟の仕事にかかりきりなんですよ」。オタクが代わりに答えた。いったい何が起こっているんだ?

 帰ってチェッカーと大口兄弟に詳しく事情聴取をしようと思ったのだが、ロバさんが今から客先に行くので同行してくれという。スケジュールを見ると、1週間びっしりである。どうやらオタクが復帰するまで、事情聴取はお預けのようだ。和人は、電話でアネゴに事情を話し、事務処理が滞らないように指示して、そのまま客先に直行した。

 オタクが戦線離脱してから3日後、アネゴから携帯に着信があった。客先なのですぐに取れなかった。留守電を聞いて、和人は真っ青になった。本部からの査察が入ったのだという。すぐに営業所に飛んで帰った。

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