ポメラみたいにカバンに――職人が作った折りたたみギター創造する人々(1/2 ページ)

創造をする人々が創る製品やビジネス。その「アイデアの起源」「アイデア具現化の壁」についてフォーカスして、アイデアマンの実際に学びたい。第2回目は、折りたたみギター職人を取材した。

» 2009年01月26日 15時48分 公開
[IDEAPLANT,ITmedia]

 折りたたみギター職人の島野裕次氏を取材した。世界的に見れば、折りたたみギターはほかにも存在するが、彼の「blues walker(ブルーズウォーカー)」は、たたんだ状態が圧倒的に小さい。というのも、折りたたみ機構と伸縮機構を組み合わせているからだ。

WebサイトではCGの折りたたみギターをクリックして開閉を試せる(Viewpoint Media Playerのインストールが必要)。

blues walkerの大きさは、演奏時で770×125×65ミリ(幅×奥行き×高さ)。写真のたたんだ時は390×125×75ミリと約半分の長さになる。弦の長さが626ミリなので、たたんだ時は弦長よりも短くなるのだ。重さは本体だけで2キログラム。アンプとスピーカーを備えた箱にしまうと4キロ

 島野氏が白いカバンを机に置く。ビジネスパーソンが持っているカバンと同じサイズだ。パチンパチンと留め金を外すと、中からそろばんを二回りほど大きくしたような長方形のギターネックが見える。

 それをカバンから取り出し、折りたたまれたギターをくの字にひらいて、まっすぐにする。長さ方向に少し引っ張ると本体に着いたハンドルがせり上がる。そのハンドルを手でぐいっと押しこむと、弦がぴんと張る。革のベルトをつけ、アンプ内蔵カバンとケーブルでつなげば準備OK。エレキギターとして普通に演奏できる。電源は乾電池なのでコンセントはいらない。カバンを置いてからここまで、時間にして約1分。

 音色は、折りたたみギターといえど、なかなかいい。それもそのはず、2008年12月に神奈川県川崎市で催された「全国手づくり楽器アイデアコンテスト '08」では、この折りたたみギターは、審査員特別賞を受賞しているほどなのだ。

 筆者は初めてこのギターを手に取ったとき、技術的な工夫に非常に興味をもった。何度も折りたたみ状態と伸ばした状態を繰り返してみると構造上の遊びが一切ないことが分かる。拡げる途中の半端な位置で本体を振ってみたりしたがガタツクことがない。レバーをぐっと押し込むと、弦に十分なテンションが得られて、そのままチューニングなしでも弾ける。

 難点も強いてあげるならば3つある。1つ目は価格で、1本30万円から。2つ目は納期。手作りということもあり、最短で1カ月だ。先に取りかかっている注文があれば、その分さらに納期は長くなる。3つ目は、弦の扱い。カバンに入るほどに小さくなるという製品特性上、折りたたむとき、弦の扱いに注意を要する。

 こんな難点もあるが、最近、筆者がお気に入りで使っているポメラに、どことなく“哲学”が近いと感じた。どこにでも連れて行ける小ささと広げればフルサイズ。気軽にもっていけ、乾電池で動き、すぐに広げられ、その場の空気を逃さずに、道具本来の用途を楽しむ。しっかりした質感をもつ仕上げ――。

 彼は、いつも自分のペースで作品を作る。量産や大もうけにはあまり興味がないのかもしれない。取材時には、金属の塊から自分で削り出したこだわりの金づちや、自分で改造した3輪ハーレーなども見せてもらった。職人としての多彩な技能を持ちながら、日々を楽しんでゆっくりと生きている。

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