元マイクロソフト社長の成毛眞氏――「もう10年来MS製品は使っていない」企業家に聞く:成毛眞氏【後編】(1/3 ページ)

ネット時代にこそ教養がものをいう――PC黄金時代を知る元日本マイクロソフト社長の成毛眞氏が現在のIT産業をどう見ているか、またネット時代を生きる私たちはどう教養を身に付け、それをどう生かせば良いのか、そのヒントを聞いた。

» 2013年07月08日 10時30分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]
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 前編に引き続き、元日本マイクロソフト社長の成毛眞氏に話を聞く。前回は英語教育偏重の問題点から、日本再生といった課題と正しく向き合う知恵=教養の重要性へと話題が拡がった。後半では、PC黄金時代を知る氏が現在のIT産業をどう見ているか、またネット時代を生きる私たちはどう教養を身に付け、それをどう生かせば良いのか、そのヒントとなる話を聞いた。

ネット時代に教養をどう身に付ける?

成毛眞氏

まつもと 前回の英語の話をはじめ、「教育」に関心を持つ経営者が増えました。

成毛 僕個人は「教育」ってまるで信用していません。マイクロソフトで社長をしていた時代も、いわゆる社員教育って一切やっていないんですね。「ムダだ、それより本を読め」と(笑)。いい大人が、自分にどんなスキルが必要でどんな本を読めば良いかは判断できなければおかしいでしょう。例えば何か1つの専門知識が必要であれば、セミナーなどに丸1日〜数日掛けて参加しなくても、数時間本を読めばかなりの部分を身に付けられるはずです。あとは今なら「ググれ」と(笑)。

まつもと 「Bing」じゃなくていいんですか(笑)。最近だと多くの講義の模様もネットで視聴できるようになりましたしね。

成毛 教育というなら、情報をいかに入手し、どう扱うかというリテラシーこそ教えるべきです。携帯電話やスマートフォンを学校に持ち込ませない、という意見がまだ力を持っているうちは望みが薄いかもしれませんが。時間がたてば必ず時代遅れになるプログラミング言語を教えるよりもよほど重要なことでしょう。

 「自分が何を知らないか」を知らなければ、「ググる」ことすらできません。いわゆる地頭が良いと呼ばれる人たちに共通しているのは、子どものころ百科事典に囲まれて育っていることです。自分の興味関心とは直接関係なく、とにかく百科事典を頭から読んでいく――それって自分が何を知らないかを知る最高の方法です。

 ところが、ネットの中ではそういう方法が採れない。「検索ワード」を知らなければ情報に当たれないわけです。僕は今の時代に適した新百科事典のようなものが必要だと考えています。「自分が何を知らないかを知る」そのステップをクリアした人は自分の読みたい本を読み、ググればいい。

まつもと Wikipediaではダメなんでしょうか?

成毛 Wikipediaは頭から順に読むには膨大すぎるし、やはり検索を前提としたものだと言わざるを得ない。そこから項目をピックアップしたインデックスのようなものが必要だろうね。スクリーンセーバーになったら、10個くらいキーワードが表示されるとかそんな仕組みがあっても良いかもしれない。その中から自分が知らないものをとにかく読んでいく、という具合に。

まつもと ネット時代に即した「教養の基本パッケージ」が必要、ということですね。大学の教養課程が見直されていることにも通じるものがありそうです。

成毛 そうだね。ただ、大学の教養は古典ばっかりやっている印象があります。例えばアリストテレスの「形而上学」の次に最近マーケティングの分野で注目されている「ランチェスター戦略」が項目として出てきたって良い。そのあと「フェルトペン」が突然項目として出てきてもOK。

 今の時代、教養を古典にのっとってやっても間に合わないわけです。はやり物を入れるという意味ではなく、ベーシックなものを加えてこそです。電子書籍に関することなら「Kindle」や「Kobo」といった個別の製品の話ではなく、まず「E Ink」とは何ぞやという具合に。

まつもと ビル・ゲイツがデジタル百科事典「エンカルタ」(日本では1997年から2009年まで販売)に力を入れていたことを思い出しますね。

日本で発売された最後の「エンカルタ」(2009年版)

成毛 あれは全く発想は同じでしたね。でも売れなかった。教養ツールで売れって僕は言っていたんだけど、検索ツールとして売ってしまったからね……。あれはもったいなかった。

まつもと Officeに付属していた時期もありましたが、文書を作りながらの調べ事であればWikipediaなどの検索で事足りる場面も多いですからね。

最近のWordでは、リサーチ機能として右クリックから検索が行えるようになっている
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