部下にうまく指示が伝わらない? 特効薬は“あいまいさの排除”田中淳子の人間関係に効く“サプリ”

思っていることが部下に伝わらない……。そう思ったらまずは、会話の中に“あいまいさ”がないかを疑うといい。伝えるときは“具体的に表現”し、聴くときには“あいまいさを排除”することで改善されるはずだ。

» 2014年02月27日 11時00分 公開
[田中淳子,Business Media 誠]

田中淳子の人間関係に効く“サプリ”:

 職場のコミュニケーションに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。「上司にこんなことを言ったら怒られるかもしれない」「部下には気をつかってしまうし」――。

 本コラムでは、職場で役立つコミュニケーション術をご紹介します。具体例を挙げながら「なるほど! こういうやり方があるのか」「これなら自分でもできるかもしれない」と感じてもらえるよう、筆者が見聞きした出来事をちりばめています。

 明日から……ではなく、いますぐに試すことができる「コミュニケーションのヒント」をご紹介しましょう。


 あるプロジェクトのリーダーが、メンバーとの意思疎通に悩んでいた。あるメンバーの仕事ぶりが期待よりも遅いというのだ。

 「できるだけ急いでやってね」と伝えているのに、成果物が上がってくるのは2日後だったりするので、そのメンバーのことを「仕事が遅い」と決めつけていたらしい。すると、その話を聴いていた別のプロジェクトリーダーが、「それ、分かる、分かる」と身を乗り出した。

 「外国のメンバーとやっているプロジェクトでも、メールに“ASAP”(=As soon as possible:できるだけ早く)と書いたのに、対応が全然、“ASAP”じゃないのでイライラすることがある。文化の違いかと思っていたけれど、日本人同士でも似たようなことがあるんですね」

 そこで、「できるだけ急いで」と言う場合、どのくらいの時間を想定しているのかと尋ねてみると、彼女は、「2〜3時間以内に出す」というつもりでいることが多いと答えた。「うーむ、それ、メンバーによってかなり解釈が異なるかもしれませんよ。試してみては?」とアドバイスした。

 彼女はチームに戻り、定例会議の席で、「○○をできるだけ急いで対応して」と依頼した場合、「できるだけ急ぐ」というのは、具体的にどの程度をイメージしているかをメンバーに訊いてみたそうだ。すると、自分の感覚と同様に「2〜3時間」と答えるメンバーもいたものの、ほとんどは、まったく異なる解釈をしていたらしい。「今日中ってことですよね」「今週中でいいかなと思います」……というように、見事に捉え方がばらばらだったと気づき、「だから、私が期待しているようにメンバーは動いてくれないのだな」と改めて実感したそうだ。

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 日付や時間に限らず、無意識のうちにあいまいな表現を使ってしまうことは誰にでもあるはずだ。“具体的に伝える”ことを意識せずに話していると、つい、「私が思っている通りに相手が動いてくれない」と思ってしまう。だから、口にする言葉が具体的なものになっているかどうかを自分自身で意識しながら、言葉選びをしたいものである。

聴き手も工夫を

 聴き手も気をつけたいことがある。

 会議などでも「あいまいな表現」を使うことは日常茶飯事で、例えば、誰かが「プロジェクトで大事なことは、コミュニケーションだよ。技術の課題も少なくないけど、プロジェクトの成否は、コミュニケーションの良しあしが決めてしまうことって多いよね」と発言したとする。すると、多くの人が「うん、そうだね、コミュニケーションは影響するよね」「コミュニケーションは大事だと私も思う」と応じるに違いない。

 「コミュニケーションって、何を指していますか?」「誰とどうすることをコミュニケーションと言っていますか?」と突っ込んで確認することは少ない。「コミュニケーションが大事」と言われてしまうと、誰もがなんとなく「分かったつもり」になるからだ。

 でも、この時、それぞれの頭の中に思い描く「コミュニケーション」はきっと異なっているはずだ。ある人は、「対面で会話することの大切さ」を、別の人は、「文書で記録を残しておくことの重要性」を思い描きながら会話していることも考えられる。

 伝える側ができるだけ具体的に表現することも大事だが、聴く側が「あいまいさ」を排除する質問をすることも重要なのだ。そのためには「突っ込んで具体化する」必要があるが、これを苦手とする人は多い。相手が抽象的に発言していても、行間を自分の知識や経験で埋め合わせて解釈してしまうため、疑問に思わない。これを克服するためには、自分が「分かった気になっている」ことに気づくことが第一歩だ。相手の言っていることに少しでも抽象的な部分が残っていたら、遠慮なく質問し、相手のイメージしていることと自分の理解とを合わせていくべきだ。

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 面談の場で部下が「将来が不安なんですよね」と言った時、「ああ、それは俺も同じだよ。こういう時代だから、将来が不安だよなー。年金がちゃんと支払われるのだろうか、とかさあ」などとすぐに応じてしまうことがある。しかし、ここで部下の質問を掘り下げてみれば、言いたいことをもっと明確にできるはずだ。

「将来っていつのこと?」

「あ、将来ってちょっと大げさですけど、1年後、2年後のことです」

「不安とは?」

「今のプロジェクトで使う技術が陳腐化する可能性もあると思うので、新しい技術も勉強しなければと思うのですが、プロジェクトが忙しくて、勉強の時間を確保できなくて」

「技術力のことね。なるほど」

 と、具体的に理解できる。

 伝える側も「自分の言葉のあいまいさ」をできるだけ排除し、受け取る側も「相手の言葉のあいまいさ」に気づき、具体化するための質問を投げかける。こうやって、双方の理解を擦り合わせていくのである。

著者プロフィール:田中淳子

田中淳子

 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。

 1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。


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