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» 2015年08月31日 08時00分 UPDATE

池田直渡「週刊モータージャーナル」:バブル崩壊が生んだBセグメントの隆盛 (1/5)

バブル崩壊以降の長引く日本経済の低迷によって、消費者の意識は大きく変容してしまった。「いつかはクラウン」と言いながらクルマを何度も買い替える時代は終わり、皆が軽自動車とBセグメントを買い求めるようになった。

[池田直渡,ITmedia]

 歓迎すべきことではないが、国内の経済格差は広がっている。「一億総中流」と言われた時代は過去のものになった。クルマは高価な耐久消費財だ。普通の人にとっては家に次ぐ高額なもので、結構な金食い虫だ。だからだんだんと小さいクルマで済ませる人が増えている。

 しかも家ほどには耐久年数が長くない。それを少しでも長く使おうとする動きも加速している。一般財団法人自動車検査登録情報協会が公開している資料によれば、2014年のデータでは軽を除く普通車の平均使用年数は12.97年となっている。この算出方法では、初登録年度ごとに前年からの減少台数(登録抹消)を調べ、これを平均している。一時抹消なども含むため、抹消されたクルマが再登録される場合などもあって、完全に正確な数字とは言えないが、一応の信ぴょう性が持てる数字である。

 データの推移を、記録が残っている1976年から10年おきに見ていくと、7.05年(1676年)、9.64年(1986年)、7.75年(1996年)、10.82年(2006年)。そして8年おいて昨年の12.97年となっている。全体として使用年数は長くなっているのがよく分かる。1996年が落ち込んでいるのは特殊事情だ。翌年の1997年に消費税率改定があり、駆け込み需要が発生し、買い替えが促進されたことが大きいだろう。実はクルマの買い替えについて、ここが大きなターニングポイントになったのではないかと思っている。その背景には恐らくバブル経済崩壊の影響が色濃く影を落としているのだ。

 当時の橋本龍太郎内閣は財政健全化を目指し「火だるま改革」を宣言した。ところが国内企業はバランスシート不況の最中にあった。民間部門の投資が枯渇した中で、政府が公的部門投資を絞ったため、不況が一気に加速した。

 バランスシート不況とは、エコノミストのリチャード・クー氏が提唱した考え方で、資産価値の暴落により、バランスシートの貸方と借方が釣り合わなくなることで発生する。

 1億円で土地を買ったとすれば、その土地の資産価値はおおむね同等にあり、借金の1億円の代わりに、土地資産が1億円あるのでバランスシート上はプラスマイナスゼロになる。しかし購入した土地が暴落すると、借金と資産のバランスが取れなくなる。バブル崩壊時には資産価値は最大75%も下落し、1億円の借金とバランスすべき資産が2500万円という途方もないことになってしまった。ちなみに1929年の世界恐慌時のアメリカの資産価値変動は50%と言われているから日本のバブル崩壊がいかに凄まじい状態であったかが推定できるはずだ。

 これだけ大規模に資産価値が暴落すると、よっぽど資産にゆとりがある会社でない限り債務超過に陥る。取引先に発覚すれば、取引停止になりかねない。銀行も同じだ。だから企業は財務状態を必死に秘匿し、投資を最小限に減らして借金の返済を最優先する。本業で利益が出ていればそれは可能だ。債務超過がバレるまでに借金をできる限り返済し、資産と借金のギャップを減らさないと倒産するからだ。「企業会計の透明化」が叫ばれていたが、そんなことをしたら日本中でどれだけの企業が倒産するか分かったものではない。あのとき不透明にせざるを得なかったのは、巡り巡って国内経済が連鎖倒産の嵐に巻き込まれることを考えれば仕方のないことだったと言えるだろう。

 政策金利が事実上のゼロになっても企業投資が全く反応を示さないという、経済理論の根幹を揺るがす現象が起きたのが日本のバブル崩壊だった。たとえ無金利で金を貸してくれたとしても借金の額を増やすなんてとんでもないことだったのだ。

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