なぜGEは“システム思考”を全社に浸透できたのか?有識者対談(1/3 ページ)

» 2015年09月17日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

 「物事や問題の本質を見よ」――。このことは今さら目新しさはなく、ビジネスの世界において使い古された言葉だといっていいだろう。しかしながら、こうしたことを実践できずに成果を生み出せないビジネスパーソンは少なくない。

 このように、問題の見えている部分を近視眼的、表面的にとらえるのではなく、全体像をさまざまな要素のつながりとして理解するとともに、本質的な原因を見通して、他の分野や将来に悪影響を及ぼさない、最も効果的な解決のためのアプローチが「システム思考」である。

 システム思考は、ロジカルシンキング(論理的思考)などと比べるとまだ日本のビジネスパーソンの間では馴染みが薄いが、欧米では専門的な教育が行われているなど、取り組みが進んでいる。

 では一体、システム思考によって企業はどう変わるのか。また、どのように身に付けられるものなのか。日本におけるシステム思考の第一人者であるチェンジ・エージェント社長の小田理一郎氏と、ビジネスパーソンが本質的な解決策を生み出すための思考法としてシステム思考の重要性を説いているグロービス電子出版 発行人兼編集長の嶋田毅氏が語った。

強力なリーダーがいなくても継承される組織

――システム思考を実践する企業とそうでない企業というのは、業績にも大きく影響するものなのでしょうか。

嶋田: はい、その傾向は強いです。例えば、好業績を続けているセブン‐イレブンは、トップから末端まで良い循環が流れる組織構造を作り上げています。これは鈴木敏文会長がシステム思考の発想を持っているからだと思います。

チェンジ・エージェント社長の小田理一郎氏 チェンジ・エージェント社長の小田理一郎氏

小田: 一方で、うまくいってない企業に多いのは、かつてシステムを設計した人が定年などでいなくなってしまい、システムの全体像を継承できないまま悪循環に向かっていることです。

 ここでは成功例をご紹介しましょう。その代表的な1社が米GEです。GEのジャック・ウェルチ元CEOは強力なリーダーというイメージがありながら、人や組織を育てて、思考や考える文化を根付かせました。その結果、彼がいなくなった後もビジネスや組織がうまく回っています。

嶋田: ウェルチ氏自身がシステムを作り、その後を受け継いだCEOもシステムの構造がきちんと頭に入っていたことが大きかったです。良いシステムをいかに次の後継者に受け継いでいくのかも経営者の手腕といえるでしょう。

 ただし、どうしても点としての戦略だけを引き継ぐ人が多く、システム全体を引き継ぐという発想を持つ経営者は少ないです。そこが企業の差となってきます。

 せっかく良いシステムを作っても、一代で終わってしまうのは残念です。どれだけ経営者が自分の才覚だけではなく、システムをいかに形式知化して次世代に引き継げるかというのが重要になってきています。

 そうした中で関心があるのはシリコンバレーのIT企業です。米Googleや米Facebookは経営理念も含めて創業者が仕組みを作り、それが今も回っています。ITビジネスみたいな新しい産業はシステムが強烈に働きやすい業界だと思います。そこにシステムを作った人間が消えて、次の世代でどうなるかというのは興味があります。

魔法の杖はない

グロービス電子出版 発行人兼編集長の嶋田毅氏 グロービス電子出版 発行人兼編集長の嶋田毅氏

嶋田: ところで、小田さんにお聞きしたいのが、良い会社というのは、システム思考的なことをどのレイヤーまで落とし込んでいるのでしょうか。例えば、社長一人だけシステム思考を持っていても駄目だと思いますが、部長などの管理職レベルまである程度浸透させていればいいのか、そこまでいかなくても経営陣がしっかりしてればいいのか。どうでしょうか。

小田: 共有ビジョンのレベルとして、浸透しているにこしたことはありません。当然、現場の一社員、部長、事業部長、社長それぞれが考えるレベルは違います。ただし、社員が共有ビジョンを持ちながら、周囲の状況を見て考え、自分の役割を果たしていくことが大切なのです。

嶋田: 例えば、セブン‐イレブンを見ると、社長が何度もミーティングをやっていて、現場のスーパーバイザーにまで浸透しています。トヨタもあれだけの大企業にもかかわらず、関連会社まで含めてシステムを浸透させる仕組みを持っていることがすごいです。

 魔法の杖のような、便利な浸透ツールはありません。いかに実直にやるかが重要です。ウェルチ氏のすごいところは、GE流の経営をとにかく伝えるのがミッションだということで、どんなに忙しくても社員にレクチャーしたり、リーダーを育てたりと、コミットしています。

 経営者の役割というのは、もちろん重要な意思決定を下すというのはありますが、それ以上に、システムを組織に浸透させることではないでしょうか。そのためにおのずと時間も費やされます。

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