トヨタ自動車が農業に本格参入――。
といっても、トヨタが自ら農場を運営して野菜などの農作物を生産・販売したり、最先端の自動車技術を応用したハイテク農機を開発したり、という話ではない。
同社のお家芸といえる「カイゼン」を稲作に生かすため、新たな事業として米生産者の支援に乗り出したのである。この取り組みの先にあるのは、“ニッポン農業”の競争力強化だ。
「なぜトヨタが?」と思う読者も多いだろう。実は、トヨタと農業のかかわりは深い。将来直面するであろう世界の食糧危機に備えるため、畑で栽培できる「陸稲」の品種開発やサツマイモの海外生産など、10年以上前から農業に関する事業を次々と立ち上げた。1998年1月にはバイオ・緑化事業室を設置。翌年5月には愛知県みよし市にバイオ・緑化研究所を立ち上げて、農業分野などの研究開発や事業化の体制を整えた。
バイオ・緑化事業は、大きく3つに分かれる。微生物を活用した技術などを開発するバイオマス事業、環境浄化能力の高い植物を生育し、それを都市の壁面などに活用する環境緑化事業、そして農畜産支援事業である。
農業に対する取り組みの一例としては、2006年から約3年間、茨城県つくば市の農業生産法人・TKFと協業し、トヨタ生産方式(Toyota Production System:TPS)を採り入れたベビーリーフ栽培の改善活動を実施したほか、2012年には宮城県大衡村にあるグループ会社の車両工場の隣接地に温室栽培ハウスを建設し、工場の排熱を利用したパプリカの温室栽培を行っている。
畜産分野では、2006年から堆肥の促進剤「resQ45」をコンタクトレンズ総合メーカー・メニコンと共同開発、販売している。
そうした取り組みを進める中、トヨタが農業で先んじて注力しようと考えたのが「米」だ。
現在、稲作経営が置かれている状況は厳しい。農林水産省の統計によると、日本の耕地面積の約54%に当たる246.5万ヘクタール(2013年時点)が水田であるわけだが、農業戸数に占める専業農家の割合は1割程度で、野菜農家や畜産農家の8割以上と比べると圧倒的に少ない。加えて、施設栽培や畜産は海外の優れた管理技術があり、産業化が進んでいるが、稲作はいまだ効率化もままならないという。
また、主要な米作りの担い手である米生産農業法人の多くは、自らは土地を持たず、農家から作業を委託されたり、地域の農協グループ(JA)から仕事を請け負ったりしている。このようにさまざまな契約形態があるため、扱う水田は分散しており、水田の大きさや作業する区画もまちまちである。結果的に、作業の進ちょく管理などに苦労する米生産農業法人は少なくなく、現場のミスも頻発していた。
それに対し、トヨタが長年にわたり培った生産管理手法や工程改善ノウハウを米生産に応用することで、“日本の宝”である稲作の生産性向上に貢献できるのではないかという思いが同社を動かした。「トヨタとしては米生産の支援から着手するべきだと考えたし、一番やりがいがあるとも感じた」と、このプロジェクトの旗振り役である同社 新事業企画部 企画総括グループ 主任の喜多賢二氏は意義を語る。
そこで、地元・愛知県弥富市の米生産農業法人である鍋八農産とパートナーシップを組み、2011年から米生産のプロセス改善プロジェクトを始めた。
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