「名将」の予感を漂わせる、ソフトバンク・工藤監督の“人心掌握術”赤坂8丁目発 スポーツ246(1/4 ページ)

» 2015年09月24日 06時40分 公開
[臼北信行ITmedia]

臼北信行(うすきた・のぶゆき)氏のプロフィール:

 国内プロ野球、メジャーリーグを中心に取材活動を続けているスポーツライター。セ・パ各12球団の主力選手や米国で活躍するメジャーリーガーにこれまで何度も「体当たり」でコメントを引き出し、独自ネタを収集することをモットーとしている。

 野球以外にもサッカーや格闘技、アマチュアスポーツを含めさまざまなジャンルのスポーツ取材歴があり、WBC(2006年第1回から2013年第3回まで全大会)やサッカーW杯(1998年・フランス、2002年・日韓共催、2006年・ドイツ)、五輪(2004年アテネ、2008年北京)など数々の国際大会の取材現場へも頻繁に足を運んでいる。


 プロ野球の福岡ソフトバンクホークスがパ・リーグ連覇を成し遂げた。多くの有識者に開幕前から「断トツの優勝候補」と目され、その下馬評通りの独走V。しかも9月17日でのゴールインはパ・リーグ史上最速だ。このままクライマックスシリーズも制し、2年連続の日本一にも順当に輝きそうな勢いである。

 そんな凄(すさ)まじい強さを誇る若鷹軍団を率いているのが、工藤公康監督だ。今季は就任1年目。前任監督の秋山幸二氏からバトンを引き継ぎ、見事にチームをまとめ上げた。一部から“秋山の遺産”があるからこそ勝てたとの指摘も出てはいるが、それだけでVをつかめるほど勝負の世界は甘くない。監督どころかコーチ未経験の工藤監督が「勝って当然」と言われる強豪チームの指揮官への就任要請を引き受け、相当な重圧であったにも関わらず昨季以上のスピードVを達成したことは素直に誉めるべきだろう。今回は着実にチームをステップアップさせている工藤監督の手腕と人間性に迫ってみたい。

 いろいろな見方があると思うが、今季の指導法や采配を見る限りにおいて個人的に工藤監督という人はとても活発で独自の理論を持つ指揮官だと見ている。開幕前の宮崎キャンプ、そしてシーズンに入ってからもフリー打撃でマウンドに立つ姿を目にした。打撃投手として打者と実際に向き合うことで、ウィークポイントを見つけてアドバイスを送る。投手出身の工藤監督らしい手法だった。単なる話題づくりのパフォーマンスではなく実際に見えないところで打撃投手として向き合った主砲・内川に的確な投手目線からの助言を送り、一時期の不振から脱却させたことはチーム関係者ならば大半の人たちが知っている。

 采配面でも異彩を放つ。日本プロ野球でもメジャーリーグからの流れで100球が先発投手の交代メドとされる傾向が強くなる中、工藤監督は必ずしもそれにとらわれない。その場でただ勝つことだけではなく、もっと長いスパンを見据えた育成に重きを置いているからだ。先発投手の調子がいまひとつのように見え「そろそろ変え時かな」と思えるところでも比較的我慢して長いイニングを投げさせている試合がいくつかあった。

就任1年目の工藤公康監督は見事にチームをまとめ上げた(出典:福岡ソフトバンクホークス
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