対中国だけではない? お金が欲しくて“魂”を売ったイギリス新連載・世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)

» 2015年11月05日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

合意された安全保障協力の問題点

 カタールといえば、国際テロ組織アルカイダや、米国などからテロ組織指定されているイスラム原理主義組織ハマスといった過激派組織へ資金提供していることが知られている。閣僚の親族がアルカイダに資金提供してレバノンで有罪になったケースもある。

 またカタールの街にはシリアで台頭するIS(イスラム国)の旗を掲げたクルマが走っていたり、カタール政府がイスラム国に資金援助しているシンパを見逃しているとの指摘もある。さらにアフガニスタン・パキスタンに拠点を置くイスラム原理主義勢力タリバンの国外で唯一の事務所が置かれている。こうした批判を受け、2004年以降、カタールはテロ支援を禁じる法律を作ったりしているが、完全に絵に描いた餅であり、これまでに摘発された例もないという。

 これまでも軍事的な協力などを行ってきた英国とカタールだが、今回合意された安全保障協力の問題点は、英国からのインテリジェンス提供が含まれていることだ。つまりカタールの治安部隊などが、英国の電波傍受などで情報収集を行う政府通信本部(GCHQ)などと密な協力をしていくという。テロを支援する信用ならない国家に機密情報を提供するとは何事か、との懸念が聞かれたのは言うまでもない。

 そしてその裏には、やはり投資があった。首相官邸の発表によれば、今回の協定が合意された際に、キャメロンは「カタールが最近英国に投資した200億ポンド(3.6兆円)を歓迎し、首長に英国全土に渡るさらなる投資機会を考慮するよう働きかけた」という。要するに、そういうことらしい。

 こうした一方で、キャメロンは2015年10月、英国がサウジアラビアで獲得していた11億円規模の刑務所関連プロジェクトを一方的に破棄すると通達した。その理由は、サウジアラビアの人権蹂躙(じゅうりん)だという。

 まず17歳の時にサウジアラビアで「アラブの春」の一環として反政府活動に参加して、公開張りつけの斬首刑(ざんしゅけい)という判決を受けたサウジアラビア人のケースだ。そしてもう1つが、サウジアラビア在住の英国人(74)が自家製ワインを所持していたために逮捕され、鞭打ち350回の刑を言い渡されていたケース。サウジアラビアは厳格なイスラム教の国家であり、飲酒は禁じられている。

 日本人は鞭打ちといってもピンとこないが、鞭打ち刑のあるシンガポールの当局者に以前聞いたところでは、刑執行には医務官が立ち会わないといけないほど過酷な刑である。この英国人の家族も、年配者への鞭打ち刑は死刑と同じ意味であるとコメントしている。

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