「介護離職ゼロ」のために優先すべきは介護スタッフの待遇改善(1/4 ページ)

» 2015年11月12日 11時44分 公開
[日沖博道INSIGHT NOW!]
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日沖博道氏のプロフィール:

 パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。


 政府は「1億総活躍社会」に向けた「介護離職ゼロ」実現のための具体策として、特別養護老人ホームなどの介護施設を増やすため、首都圏の国有地90カ所を早ければ年内にも事業者に安く貸し出す方針だという。これはないよりはましだが、優先すべき政策ではない。

 介護離職を減らすためには介護を頼める施設を増やす必要があるという認識は正しい。財政難を理由に近年、施設介護から在宅介護へのシフトを誘導する国策が採られてきたが、政府もようやく間違いに気づいたのかもしれない。在宅介護をしたい人への支援は充実すべきだが、介護離職による職場と家庭の崩壊を食い止めるためには、施設介護を頼める先を地元に確保する以外の決め手はない(関連記事)。

 しかし土地の確保は最優先策ではない。首都圏で施設建設の場所が不足しがちなことは確かだが、介護業界の経営者の声を聞く限り、最大の課題は人手不足なのである。施設介護に対する需要は旺盛だが、そこで働いてくれる介護スタッフの確保がままならないため事業拡大が難しい、というのが現場の嘆きなのである。増設どころか現状維持すら(人手不足で)ままならないという介護施設の悲鳴もよく聞く。

 昨今はどの業界でも人手不足が叫ばれているが、介護業界は不況期から続く慢性的な人手不足業界である。正確に言うと、「需要が急拡大する中、供給が追い付かない」のであり、決して介護業界への就労数が減っているわけではなく、むしろ着実に増えている。とはいえ社会的要請が急務である職業でありながら、期待ほど人が増えていないのも事実である。介護業界の有効求人倍率は全産業のそれを遥かに上回り続けているのが実態である(資料のP.10〜11を参照されたい)。

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