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» 2015年12月17日 08時00分 UPDATE

小林正弥の「幸福とビジネス」:もしビジネスリーダーがアリストテレスを読んだら (1/3)

「ビジネスに幸福は必要か?」――。この命題に対して、哲学者・アリストテレスならどう答えるだろうか。人気番組「ハーバード白熱教室」で解説者を務めた小林正弥教授がひも解く。

[小林正弥,ITmedia]

ビジネスに幸福は必要か?

 ビジネスパーソンの皆さんは、幸福について考えたことはあるだろうか? 一般書では幸福論が流行っているものの、ビジネス書では幸せという言葉はほとんど出てこない。もしビジネス書ばかりを読んでいるのなら、この言葉が頭に浮かぶことはあまりないかもしれない。

 でもビジネスに幸福が関係ないとは言えない。ビジネスの成功や発展はその企業や顧客、ひいては社会の人々に繁栄や幸せをもたらす。会社の利益が大きくなって給料・ボーナスや配当などが増えれば、株主や従業員は嬉しく幸福になるだろう。

幸福と企業の善き発展 幸福と企業の善き発展

 従業員などが生き生きと仕事をしていれば、企業は発展する可能性が高いのに対し、多くの従業員が不幸だと会社はうまくいかないだろう。ひどくなれば病気になってその人は働けなくなってしまうかもしれない。

 若い社員が突然辞めて困ったことはないだろうか? がむしゃらに働く会社人間が高度成長時代には多かったが、生き甲斐や家庭を重視する人が最近の若者には増えている。仕事に問題や不満が生じると辞めてしまうことも少なくない。生活するためにお金を稼ぐだけではなく、人間関係や自己実現を重視するという価値観の変化がここには現れている。

 職場で皆が幸福を感じるようであれば、このような問題は起こらないだろう。それではなぜ幸福という言葉がビジネスに関してはあまり使われないのだろうか? 「幸福である」という語感が浮ついていると感じられるからかもしれない。人間の単純な内面的心理や感情は現実的な経済にはそぐわない。例えば、恋愛が成功すれば人はハッピーになるだろう。でもそういう感情はビジネスの成功にはあまり関係がないように思われがちである。

ビジネスに適した幸福哲学――樽の中の幸せ、それとも富&幸せ?

 実際、幸福を「幸せな感情」とみなす哲学もあるし、「内面的な幸福が実現できれば富のような外的なものはなくても人間は幸せである」と考える思想家もいる。西洋哲学の始祖とされるソクラテスの孫弟子・ディオゲネスはこのように説き、粗末な上着のみを着て樽の中で暮らしていたので「樽の中の哲学者」と言われた。古代ギリシャの大哲学者、アリストテレスはこれに対して、富や友に恵まれつつ内的に深い喜びを感じることを理想とした。

 つまり「樽の中の幸せ」と「富&幸せ」というように考え方が対立しているのだ。あなたはどちらがいいと思うだろうか。もし後者を選ぶなら、あなたはアリストテレス派だ。

 今から2400年くらい前のアリストテレスの時代には今日のような企業は存在していないから、彼の思想からビジネスパーソンが学ぶことはできないと思うかもしれない。

 でも、そんなことはない。もちろんアリストテレスは今のビジネスを知らなかったが、その精神に基づいて彼の考え方を想像することはできる。もしアリストテレスがよみがえったなら、ビジネスと幸福について何と言うだろうか?

※拙著『アリストテレスの人生相談』(講談社、2015年)では、各章で彼の思想を要約した上で、その観点からビジネスなどにおける70の問題に対して答えている。

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