SpaceXの快進撃をどう止める? 迎え撃つ航空宇宙大手Airbusの戦略宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)

» 2016年01月22日 10時26分 公開
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衛星インターネットでは陣営に分かれて競合

 次の舞台となっているのが衛星事業だ。

 Airbusは世界一の衛星メーカーであるために、通信衛星事業者からの衛星製造と打ち上げサービスの受注を拡大している。世界第2位の衛星通信事業者であるSESからはハイブリッド衛星の開発を受注、また同じく衛星通信・放送大手の仏Eutelsatからは世界初の汎用通信衛星「Quantum satellite」の開発について1億9800万ドルで受注するなど攻勢が続く。

 この分野でもSpaceXとの競合が見えてきた。それは衛星インターネット網の構築だ。SpaceXは2014年に数百機の小型衛星からなる地球規模の衛星インターネット網の構築を発表、その製造や打ち上げに向けてGoogleから投資を受けるなど野心的に事業を進めている。こうした動きに対抗するように、Airbusグループは同じく衛星インターネット網構築を掲げる米Onewebと提携を発表した。具体的には900機の衛星製造をAirbus D&Sが受注し、29回の打ち上げをArianspaceが受注した。

 この受注契約は単に衛星製造だけではなくAirbusのロケット事業にとっても重要だ。先に述べたようにAirbusグループのArianspaceはSpaceXのFalcon 9と既に商業衛星打ち上げ市場で競合している。従来は静止衛星軌道上の通信衛星がメインであったが、今後拡大が見込まれる比較的低軌道の衛星打ち上げに関しても、競争が始まったと言える。打ち上げ回数を稼ぐことは実績を重視する宇宙産業界では重要であり、またコスト競争力を高めることにもつながるのだ。

シリコンバレーにも進出

 このようにAirbusはさまざまな面でSpaceXの攻勢に対する手を強めているように見える。昨年5月には1.5億ドル規模のベンチャーキャピタルファンドをシリコンバレーに設立したこともその一環だ。公式にも「新しい技術を迅速に導入することでSpaceXのような新規参入組に対抗する」と表明しており、その投資対象は航空宇宙、衛星技術、データ解析、ドローンなどと非常に幅広い。

 米メディア大手Bloombergの報道では、既に年間2000億円〜3000億円規模、累計では1兆円を超える投資マネーが米国を中心とする宇宙産業に流れており、大小さまざまな新規プレイヤーが誕生し始めている。こうした新しい流れを航空宇宙大手であるAirbusも積極的に取り込む姿勢を強めていることは興味深い。成長するグローバル宇宙産業をめぐる新興企業と伝統的大手企業の攻防はいよいよ本格化していくのだ。

著者プロフィール

石田 真康(MASAYASU ISHIDA)

A.T. カーニー株式会社 プリンシパル

ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。民間宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2015」企画委員会代表。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。

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