そんな彼女の広報対応を見ていたら、歌舞伎町のホテルの支配人としてヤクザなどのクレームを処理していた三輪康子さんを思い出した。
三輪さんのクレーム対応は、相手が怒っていれば怒っているほど「前」に出るスタイルだ。「ナメとんのか、ワレ!」とすごまれても尻込みせず、一歩前に出て、相手の目を見てとことん話を聞くことを心かげている、とかつてインタビューをした時におっしゃっていた。そこで印象深いエピソードがあった。
ある男性が通販でトラブルがあってお客様相談室にクレームを入れた。対応をした女性は完璧な言葉遣い、完璧なお詫び、完璧な対応だった。にもかかわらず、この男性はなぜか怒りがおさまらず、二度とその通販を利用するものかと思ったという。
月日が流れ、その男性が今度は三輪さんのホテルでクレームを入れた。彼女の対応ですっかりと怒りをしずめた後、彼が「通販のクレーム処理」を振り返り、こんなことを言ったという。
「あの対応が不愉快だったのは、僕のクレームに対応をしただけで、僕という人間に対応をしていなかったからだ。あなたと話をしてみてそれがよく分かったよ」
これは企業広報にもあてはまる。ジャーナリストのみなさんからは「取材とクレームを一緒にするな」と怒られてしまうかもしれないが、企業内論理ではわりと近いものがあるのも事実だ。
現実問題として、企業がすべての取材申し込みに対応できるわけがない。「取材」という名目でトップに接近し、怪しげな話や、脅迫めいた話をもちかける自称ジャーナリストもいる。こちらの言い分に耳を傾けず、一方的な見方ばかりを書きたてる攻撃ありきの媒体だってある。自社イメージや営業面への影響を考慮すれば、「取材者を選別する」という守りの発想になってしまうのもいたしかたがない部分もあるのだ。
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