ワトソン君が変える医療の未来(2/3 ページ)

» 2016年05月17日 06時53分 公開
[竹林篤実INSIGHT NOW!]
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がん治療の実態、あるいは医学の限界

 仮にあなたが大腸がんにかかり、手術をうけることになったとしよう。大腸がんの手術には、いくつかの術式がある。では、あなたが受ける術式は、どのようにして決まるだろうか。

 答えは、手術を受ける病院が所属する大学系列が採用している術式による。今のところは残念ながら、その術式があなたの症例に最適かどうかはあまり考慮されない。というか、現実的には考慮できないというべきかもしれない。

 なぜなら、オペを執刀するドクターは基本的に、自分が研修医の時代に習った術式で手術することになるからだ。勉強熱心なドクターなら、他の術式についても研究している可能性はある。けれども、それを初めてやるとなるとリスクを覚悟しなければならない。寝食を忘れるほど日々の診察にいそしんでいる多くの勤務医の先生は、勉強したくともそんな時間がないケースも多いだろう。その意味で、東大医学研究科の試みは画期的といえる。

ワトソン君は臨床現場でどのように貢献するのか

 ワトソン君の役割は、医療関連の論文や薬の効能など膨大な文書データを読み込んで理解し、医師の求めに応じて最適な治療法をアドバイスすることにある。例えば、がん関連の論文は、1年間に世界中で20万本程が発表されているという。そのすべてに1人のドクターが目を通すことは、不可能である。

 ところが、ワトソン君なら、そんな人間離れした作業をこなすことができる。そして、医師が伝える症状に対して、最適な治療法を見つけ出すことが可能だ。

 ただし、その際には1つ大きな問題がある。仮に発表される論文が20万本あったとして、そのすべてが正しいと言い切れるかどうか。STAP細胞問題が明らかにしたのは、サイエンスの先端分野でも研究手法や解釈に人為的な作為が入る危険性のあることだろう。ワトソン君を信頼するためには、ワトソン君に読ませる論文の質を担保しなければならない。

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