「角栄ブーム」で得をするのは、誰なのかスピン経済の歩き方(1/5 ページ)

» 2016年06月07日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。


天才』(幻冬舎)

 「角栄ブーム」の勢いが止まらない。

 今年1月に発売した石原慎太郎さんの『天才』(幻冬舎)はついに70万部を突破。昨年から書店だけではなくコンビニ本などでも刊行ラッシュが続いている「角栄の名言集」「角栄に学べ」などの関連本も相変わらずよく売れているんだとか。

 なぜ今角栄なのか。「秘蔵っ子」として知られる小沢一郎さんは、『日刊ゲンダイ』(2016年5月4日)で、雇用の非正規化、年金の減額、TPPなどの影響で、「精神的なところで日本人が不安定になっているから」だとして、以下のように述べている。

 『日本社会の現状を見た時に、「あの人がいたら、いろんな悩みもおかしなことも解決してくれるんじゃないだろうか」と。そんな思いで単純に引かれるんじゃないかな』

 一方、『毎日新聞』(2016年3月7日)では、2014年に『未完の敗者 田中角栄』(光文社)を上梓された評論家の佐高信さんが、「イデオロギー優先でタカ派の清和会の政治になった。異論を許さない安倍晋三政権の強権政治の反動」だと分析。かつて角栄の番記者だった松田喬和・毎日新聞特別顧問も以下のように見ている。

 『金脈問題など負の面が風化している一方、国会議員の定数削減が議論され、過疎や不景気に悩む地方の声がますます届きにくくなっている不満も「ブーム」を支えている』

 理屈としてはよく分かる。現体制への不満・閉塞感というものが、かつて強烈なインパクトを残した指導者を「神格化」するという現象は、世界中のあちこちの社会で確認されているからだ。

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