データで見る、「トランプ大統領」が誕生する可能性世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2016年07月22日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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「トランプ大統領」誕生の可能性

 トランプの女性に対するデリカシーのなさを見れば、そもそもなぜ彼がここまで勝ち残ったのか不思議になるくらいだ。例えばこんな具合だ。

 共和党の女性対抗馬に対して、「あの顔を見てみろ、誰があれに投票するんだ? 次期大統領があんな顔なんて考えられるか!?」。夫のビル・クリントン元大統領が大統領時代に浮気したことを示唆して、「ヒラリー・クリントンは自分の夫すら満足させられないのに、なぜ米国を満足させられると思えるのか」。厳しい質問をしたテレビ番組の女性ホストには、「彼女の目からは血が出ている……いや、あの日なのか」。

 ちなみに全米で見ると、トランプは男性からの支持も高くない。米調査会社ギャロップの調査では男性も58%がトランプに否定的な見方をしており、この数も2015年10月の48%から増加している。トランプの主要な支持層は、労働者層の白人男性である。要するに、労働者層の白人男性から支持が高いトランプは、白人が大半を占める共和党内の予備選では勝てたが、民主党も含めた全米的な争いとなる大統領本選となると、非常に厳しい戦いを強いられるということだ。

 実は前回2012年の大統領選で勝利したオバマの例を見ると、オバマが白人労働者層から得た票はたったの36%だけだった。さらに白人労働者層の男性に限定すれば、それよりもさらに数は少ないと見られている。ロムニーは白人票の59%を獲得したが、結果的にはオバマに敗れた。ちなみにオバマは非白人票の80%を獲得している。

 予備選で躍進したと胸を張るトランプは、共和党支持者の1300万人の票を獲得した。確かにこれは共和党としては記録的な数字だが、2012年の大統領選を見ればオバマが本選で獲得した票数は6600万票に達する。非白人と女性から見放されているトランプは、一体どこまで戦えるのか。

 こんな話もある。米ワシントン・ポスト紙のある政治評論家は、クリントンが1992年から民主党が勝利しているすべての州(19州とワシントンDCで242人の選挙人が獲得できる)と、(スウィング・ステートの)フロリダ州(選挙人は29人)だけを勝利すれば、過半数の270人を超えるために次期大統領になれると、繰り返し語っている。非常にシンプルな予測だ。どれだけクリントンの人気が低くても、さすがに伝統的に民主党を支持する州が、共和党になびくほどではないのである。

 日本でも、トランプが米軍駐留経費の負担増などに触れていることから「トランプ大統領」に警戒せよという声もある。だがトランプに対するその心配は、杞憂に終わる可能性が高そうだ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。


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