内定辞退を乗り切るための謝罪作法(2/3 ページ)

» 2016年08月04日 05時30分 公開
[増沢隆太INSIGHT NOW!]
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2.内定辞退でするべきことの整理

 内定(内々定)にもいくつか形態があり、単に企業からメールで内定を知らせてきたもの、正式な内定通知として郵送や手渡しされたもの(正式な社印あり)、中には電話だけというものもあるかも知れません。いずれにしても、何らかの形で内定受諾の意思表示をしているのであれば、入社しないと決めた場合、その旨伝えることが内定辞退です。相手企業が確実に入社を取りやめることを認識させるという作業です。

 つまり内定辞退とはビジネスにおけるコミュニケーションの一つなのです。もちろん相手企業にしてみれば、採用予定だった学生が減ることはダメージです。人事担当は責任を問われることもあります。それゆえ単に内定を辞退すると告げるだけではなく、「おわびをすること」が必要です。内定辞退を伝えただけで収まることも普通にありますし、説明に呼ばれることもあり得ます。

 しかし、企業側は平気で採用を見送るくせに、なぜ学生だけおわびをするのか反発を感じるかも知れません。これはビジネスで発生するトラブルや謝罪と全く同じ現象です。つまり自分に非があって謝るのは、人間として誰でも当然できますが、ビジネスの上で発生した問題には必ずしも自分に非が無いとか、同僚や上司、部下など関係者が原因で起こったもの、取引先やら市場・自然環境など不可抗力で発生したものなど、およそ「自分は悪くない」にもかかわらず、おわびをする場面が多くあるのです。

3.謝罪の障害

 自分が悪くないのに謝るとは、何とも理不尽です。ではなぜ社会人はそんな理不尽さを飲みこんで謝罪するのでしょう。もし自分が謝らなければ、その問題は会社全体に及び、結果として事業に悪影響が出たり、取引を失ったりする恐れがあるからです。つまり社会人の仕事とは、自分1人で完結することはまずありません。だから就活では「コミュニケーション能力が大事だ」とさんざん言うのです。面接でもグループディスカッションを課すのは、良いアイデアや発言を評価したいのではなく、チームとして組織として活動できる、集団競技の適性を見るためです。

 謝罪ができない人は社会人でも珍しくありません。今年は特に芸能人や政治家など、記者会見で謝ったはずなのに返って反発と怒りを呼んで炎上する事件が多発しています。筆者は大きな記者会見のたびにテレビや新聞などから取材を受け、こうした著名人の謝罪の作法について指導をしましたが、その際に一番注意すべきだとしたのは事態の鎮静化を目指すことです。多くの人は鎮静化よりも自己正当化を優先してしまいがちです。

 「自分が悪くない」「会社選択は権利」「そもそも立場は対等だから謝罪など不要」――いずれも間違っているとは思いません。しかし、そうした個人の感情へのこだわりはめんどうな事態を何も解消しません。さっさと事態を処理して楽になるためには、いったん自分の感情は横に置き、今、この内定辞退というコミュニケーションプロジェクトに立ち向かうことです。まずは事態の収拾を図るのだと肝に銘じましょう。これは就活で内定を得るよりさらに上のレベルとなる、実践ビジネスコミュニケーションです。

 大切なことは内定辞退をするあなたが悪いから謝罪をするのではなく、社会における雇用契約というビジネス上の問題を解決するための交渉をするのだという認識を持つことです。人格や姿勢、人生観などは一切関係ない、大人の行動が求められているのです。

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