トヨタの正念場を担うプリウスPHV池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

» 2016年09月12日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

 先日、今冬に発売予定のプリウスPHVの先行試乗会が行われた。結論から言えば、クルマの出来は今までより良い。

大きく印象を変えたノーズ部分。キーになるのはMIRAIのイメージを踏襲する片側4連のヘッドランプデザイン 大きく印象を変えたノーズ部分。キーになるのはMIRAIのイメージを踏襲する片側4連のヘッドランプデザイン

 トヨタのハイブリッド系システムの常である「微速コントロールの能力のリニアリティ欠如」についてはまだまだだが、それは燃費と引き替えの覚悟の犠牲である。ユーザーがいつでも思うようにクルマを制御できることを重んじるか、燃費を重視するかによって変わる。例えば、速度計を見ながらぴったり60キロで走ろうとするのは相変わらず難しい。スロットルとトルクデリバリーが正しくひも付いていないからだ。

 ただし、それでも燃費重視派の人にとっては歴代のトヨタハイブリッド車の中でベストになるのもまた事実である。ハンドリングでも乗り心地でも動力性能でも、1年前に出た通常のハイブリッドであるプリウスを明らかに上回っている。

 今回のプリウスPHVのテーマの1つは、プリウスとの明確な差別化である。車両前後の造形でもはっきりと区別されているが、見た目だけでなく、乗ってもその違いがキチンと作り込まれている。中身が似たようなものをあたかも別物に見せようとしていないという意味で、ある種の正直さを感じた。

新しいPHVシステムはいくつかの大きな変更が加えられている。まずバッテリーの大容量化が行われた。これによって能力に余裕ができたので、従来発電機としてのみ使っていたジェネレーターを駆動にも使うようになり、2モーター駆動が可能になった。またルーフにはソーラーパネルを装備し、一般的な年間走行距離の1割程度にあたる1000キロはこの発電でまかなえる計算になる 新しいPHVシステムはいくつかの大きな変更が加えられている。まずバッテリーの大容量化が行われた。これによって能力に余裕ができたので、従来発電機としてのみ使っていたジェネレーターを駆動にも使うようになり、2モーター駆動が可能になった。またルーフにはソーラーパネルを装備し、一般的な年間走行距離の1割程度にあたる1000キロはこの発電でまかなえる計算になる

正念場を迎えたプリウスPHV

 さて、なぜそうまでしてプリウスPHVを立てなくてはならないかというのが今回の本筋だ。事件の現場は北米マーケットだ。

 恐らく耳にしたことはあるだろうが、カリフォルニアにはゼロエミッションビークル(ZEV)規制という環境規制がある。これは一定の生産数を超えるメーカーは、州の指定するZEVを一定数量販売しなくてはならないという規制だ。しかもこれには多額の罰金、もしくは、規制を達成したメーカーの余剰枠を買い取るかという厳しい罰則が付いている。余談だが、スバルやマツダは販売数量的に引っかからないので、直撃を免れている。ただし、いつその規制が及ぶかは何とも言えない。

 このZEV規制のルールが大幅に変わった。採用する州が増え、ZEVの認定枠が厳しくなり、台数比率が順次引き上げられることが決まった。順を追って説明しよう。

 まずは規制を採用した州が増えたことが大きい。2013年にはコネチカット州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州、オレゴン州、ロードアイランド州、バーモント州の7つの州が合意書にサインして加わった。カリフォルニアと合わせて8州。これらは北米マーケットのほぼ4分の1に達するのでメーカーは逃げようがない。常識的に考えてこの規制が北米のモータリゼーションに重大な問題を引き起こさない限り、採用する州は今後も増えていくだろう。

 日本の自動車メーカーが世界で戦える理由の1つが、北米マーケットに確実に食い込んでいることだ。トヨタばかりでなく、ホンダも日産も三菱も日本と北米で強いことが競争力の源である。トヨタが北米マーケットでシェアを失うことは、その競争力を失うばかりか、ライバルVWグループのシェアの拡大を許すことになりかねない。もちろんトヨタが失ったシェアをVWが総取りということはないだろうが、模式的にゼロサムの戦いだと見ればトヨタの10%のシェアダウンは、VWのシェア10%上積みを意味し、その差は20%になってしまう。敵に塩を送ることが分かっていてみすみす負けるわけにはいかない。

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