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» 2016年11月18日 06時30分 UPDATE

杉山淳一の「週刊鉄道経済」:なぜ滋賀県は北陸新幹線「米原ルート」に固執するのか? (1/6)

北陸新幹線延伸区間は「小浜京都ルート」にまとまるだろう。しかし、滋賀県は費用対効果に優れた「米原ルート」を譲らない。北陸地域も近畿地域も望まない「米原駅乗り換え案」は、実は滋賀県にもメリットがない。それでも滋賀県は主張しなくてはいけない。これは「我田引鉄」という単純な話ではない。

[杉山淳一,ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


「小浜ルート」「米原ルート」は別の計画路線だった

 北陸新幹線は2015年3月に長野〜金沢間が開業し、現在は金沢〜敦賀間の建設に着手している。敦賀まで一気に開業させるか、途中の福井まで先行開業するか、という議論はあるけれども、敦賀までのルートは確定している。

2015年3月に開業した北陸新幹線 2015年3月に開業した北陸新幹線

 しかし、敦賀〜新大阪までのルートが確定していない。これは1970年に制定された「全国新幹線鉄道整備法」に基づいて、翌年に告示された北陸新幹線の計画が「東京都〜長野市付近〜富山市付近〜大阪市」と大ざっぱに定められたからだ。

 富山市付近〜大阪市という計画は、この2地点間ならどこを通っても良いとも読める。ただし、当時はほとんどの関係者が金沢市付近〜福井市付近〜米原市に至ると考えていた。新幹線を「既存の幹線の高速別線」と考えるなら、北陸本線に沿って米原市に至ると考える方が自然だし、米原から東海道新幹線に乗り入れると米原〜新大阪の建設は不要になる。

 しかし、この「常識」を覆した政治家がいた。当時の総理大臣、田中角栄だ。福井県知事の強力な働きかけを受けて、1973年に北陸新幹線ルートに小浜市が追加され、事実上、米原ルートは不可能になった。ただし、米原と北陸を結ぶルートとして、同年に敦賀市と名古屋市を結ぶ「北陸・中京新幹線」も策定されている。この路線は関ヶ原、または米原で東海道新幹線に直通する前提と考えられていた。実はこれが北陸新幹線「米原ルート」の正体だ。元祖・北陸新幹線ルートである。

 なぜ福井県は小浜市に新幹線を通したかったか。その理由は、現在、関西電力が運営する高浜原子力発電所、大飯原子力発電所の誘致のためであった。福井県若狭湾沿岸地域は原子力発電所の受け入れに前向きだった。発電所と周辺の関連事業によって雇用が増え、経済が活性化されるからだ。しかし、地域住民すべてが賛成というわけではない。そこで、経済活性化の裏付けとして新幹線を通してほしい、となった。

小浜市に近い関西電力大飯発電所 小浜市に近い関西電力大飯発電所

 政府としては、反対運動が多い原子力発電所建設について、福井県の立候補はありがたい。そこで小浜市の新幹線経由を認め、翌年には発電所のある自治体に向けた交付金制度(電源三法交付金)も制定した。「福井県を見習いなさい、原発を誘致するとメリットがありますよ」という形にした。

 それでも、小浜市〜大阪市間の経由地は定まっていない。建設費を考えると、小浜市と大阪市を直行するルートが妥当と考えられた。しかし、政府内に米原ルートや湖西線ルートを支持する意見も多かった。特に滋賀県と京都府が難色を示した。小浜〜大阪直行ルートの京都府内駅は亀岡市だ。京都府としては京都駅を経由してほしい。滋賀県も県内を通ってほしい。

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