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» 2017年01月16日 07時00分 UPDATE

池田直渡「週刊モータージャーナル」:踏み間違い暴走事故について考える (1/3)

クルマの事故原因として本当にそれで片付けてしまって良いのだろうかというニュース報道が溢れている。事故の原因を責任問題として処理するのではなく、科学的な原因究明に早く進めるべきではないだろうか。

[池田直渡,ITmedia]

 ここ最近、自動車の事故報道において、結構な比率をアクセルとブレーキの踏み間違いによる暴走事故が占めている。大抵は高齢者をキーワードにして、「ボケが進んだ年寄りがクルマを運転するからいけない」とでも言わんばかりの話になっている。

 そういう視点があるのは当然だが、それ一色になるのはどうなのだろう。事故が起きたときに安易に原因を求めて安心しようとする姿勢がそこからはうかがえる。トップカテゴリーのレーシングドライバーが事故を起こしても「ハンドル操作を誤り」だったりする。クルマの事故原因として本当にそれで良いのだろうかという報道が溢れている。

 プロドライバーと同じコースを走って、あるいは同乗して彼らの運転技術を体験したことのある人ならば、その次元の違う技量に驚くはずである。もちろんプロドライバーでもミスは起こす。ハンドル操作を誤ることがないとは言えないが、プロですらミスをするならば、普通のドライバーはさらに高い頻度でハンドル操作を誤ることになる。

真の事故原因を究明せよ

 だから、技量の問題ではなく「どうしてハンドル操作を誤ったのか?」を突き止めないと原因究明にならない。そこには人の認知を妨げる何かが存在したり、誤認を誘う何かがあって、危険の発見が遅れ、その結果、ハンドル操作を正しく行う時間が足りないなど、真の理由が存在するはずである。そうした原因なしでプロが操作を誤るようなら、自動車そのものの禁止まで含めて考え直さなくてはならないはずだ。

自動車事故の原因究明はきちんとなされているか……? 自動車事故の原因究明はきちんとなされているか……?

 ドライバーの単純な不注意とされている事故のうち、別に真の理由があった事故のケースを紹介してみよう。田んぼの真ん中の交差点。当然見通しは良い。数キロ先まで見渡せるような交差点なのに、高速度での衝突事故が多発する交差点があった。この事故、不思議なことに正面衝突はなく、すべてが90度の交差で起きるT字衝突だった。例えば、3時と6時の方角から進行して来るクルマ同士による衝突である。

 事情聴取をしてみると、ドライバーはそんなに見通しが良い交差点であるにもかかわらず、気が付いたらぶつかりそうな距離にクルマがいたと言うのである。本当は警察がこの証言をしっかり聞いておくべきだったが、ドライバーの不注意で処理を進めた。その結果、事故が多発していく。あまりにも事故が頻発するために、ようやく調査が開始されて判明した原因は意外なものだった。

 90度の角度で1つの交差点に向かう二台のクルマがたまたま同じ速度だと、ドライバーから見える背景に対して、相互のクルマが静止して見える。つまり景色の中を動いているものとして認識できないのだ。運悪くクルマが背景に馴染む色だと、相当の距離に近づくまで気付かないということが起きる。

 言うまでもないが、我々は普段、固定した背景の手前で動く物体を移動中のものとして認識する習慣が付いており、背景に対して静止しているものには注意が向かない。それに気付くのは視野の中でクルマが占める面積が一定以上に達し、図柄そのものとしてクルマだと認識したときである。

 新聞やテレビは交通事故のニュースを手間も掛けずに単なる小ネタとして、定型的に処理してさっさと流してしまう。それは警察発表をそのまま報道するということだ。であるにもかかわらず、警察がその事故について真剣に対応しているのかと言えば、そうではない。こちらも定型の原因にとっとと当てはめて早く処理を終えたいという姿勢である。

 筆者は以前ひったくりの現場に居合わせたことがあるが、証人として正確に話をしようとすると、警察官はどんどん話を特定の形に当てはめようとする。挙げ句に「そんな細かいことは良いから」と話をさえぎる始末で、現場の情報をできる限り詳細に記録しようという気は微塵(みじん)もなかった。

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