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» 2017年01月23日 07時00分 UPDATE

池田直渡「週刊モータージャーナル」:C-HRで到達 トヨタの「もっといいクルマ」 (1/3)

トヨタは大きく変わりつつある。2015年に打ち出した「TNGA(Toyota New Global Architecture)」の第1弾プリウス、そして今回、第2弾のC-HRに乗って、トヨタが掲げる「もっといいクルマづくり」が推進されていることを体感したのだ。

[池田直渡,ITmedia]

 トヨタのクルマと言われてどんなイメージを持つだろうか? 「80点主義」「凡庸」「販売力だけで売れている」――。全員が全員とは言わないが、少なくともクルマ好きな人たちの間では、これがそこそこ以上に多数派のパブリックイメージだと思う。

 その気持ちはよく分かる。筆者自身も退屈で心が動かされない過去のトヨタ車の記憶は、今でも消しがたくある。エンジンはトルクのパンチ感がないまま、ただスルスルと上まで回り、ドラマチックな盛り上がりもなければ、その代わりとなる低速トルクの豊かさもない。走りが売りのはずのFRセダンをサーキットに持ち込んでリミッターの効く時速180キロからたった1回ハードブレーキを踏んだら、ブレーキキャリパーの剛性不足でジャダーを出した。市販車なのでノーマルのままこんなブレーキングに複数回耐える必要はないが、1回目から音を上げるのも珍しい。スポーツカー的な心躍る演出も、実用車としての頼り甲斐もそこにはなかった。しかし、そのトヨタは過去のものになりつつある。

トヨタがTNGA第2弾として送り出したコンパクトSUV C-HR トヨタがTNGA第2弾として送り出したコンパクトSUV C-HR

TNGA改革と豊田章男

 筆者が最初にトヨタの変化を感じたのは、2015年3月にトヨタが出した『トヨタ自動車、「もっといいクルマづくり」の取り組み状況を公表』という一通のリリースを読んだときだ(関連記事)。

 しかしこのとき、トヨタの言い分を追いかけつつも、「本当にトヨタがそんなことをできるのか?」という疑義が拭いきれなかったのも事実だ。しかし2015年にトヨタが打ち出したTNGA(Toyota New Global Architecture)の第1弾たるプリウス、そして今回のC-HRに乗って、トヨタの「もっといいクルマづくり」が本当に推進されていることを体感した。

TNGA推進の源流は豊田章男社長が進める「もっといいクルマづくり」(撮影:筆者) TNGA推進の源流は豊田章男社長が進める「もっといいクルマづくり」(撮影:筆者)

 TNGAとは何か? それはとても分かりにくい。トヨタの内部ですら、一言で言い切る言葉は確立されていない。なぜなら「いいクルマ」の定義について、言い出しっぺの豊田章男社長は何も言わないからだ。「いいクルマとは何か、自分で考えろ」という姿勢を貫いている。

 それは開発車両のテストドライブの時ですらそうなのだ。「ここがダメだ」「そこをこうしろ」という具体的な指示は一切出さない。評価をしないのだ。では開発者たちは社長の評価をどうやって受け取っているのかといえば、「1周回って来て、クルマを降りちゃうこともあれば、2周、3周と走ることもあります。いつまでも走り続けて一向にクルマから降りてこないこともあるんです」。

 エンジニアは苦笑いしつつ、1周で降りてしまった時はもうやり直すしかないと腹をくくると言う。豊田社長はエンジニアとクルマに対する見識でそうやって対等に立ち向かうためにレースを始めたという。それは、かつて、トヨタのチーフ・テストドライバーに「クルマを分からないヤツに口出しされたくない」と拒絶されたことが基点になっている。創業家の御曹司はプライドをかなぐり捨てて、テストドライバーの弟子入りをした。そして運転について教えを受けた。

 別の言葉も書いておこう。「誰もが、私が失敗するのを待っていた。『それ見たことか!』と言おうとしていることが伝わってきた」。世間は「創業家の馬鹿ボンボンが失敗しやがったぜ。ざまあみろ」と溜飲を下げるチャンスをうかがっていたのだ。トヨタ内部だけの話ではない。日本国民もジャーナリストも、それどころか世界の人々もそうだった。北米でのプリウスがらみの公聴会は、まさにその頂点だったといえる。

TNGAはトヨタのクルマづくり改革である。その象徴として、モジュール型シャシーが存在する TNGAはトヨタのクルマづくり改革である。その象徴として、モジュール型シャシーが存在する

 豊田社長は、それを跳ね返すための方法として運転技術を磨いた。レース活動を通じて、物申せる立場を確立した上で「もっといいクルマ」と言い出した。筆者は豊田章男という人の人となりが分かるほどには長時間話したことがない。ただ、広報があたふたする程度にはざっくばらんで、言いたいことがある人だった。

 恐らく、膝詰めで話せば、豊田社長にとっての「もっといいクルマ」はハッキリ像を結んでいるはずだが、それは黙して語らない。TNGAがどうにも秘密めいている、あるいは、はっきりしないのは源流そのものがそうだからだ。

 現在筆者が理解している範囲で言えば、TNGAはトヨタの体質改革だ。事業のすべて、それは働く人々の知識や意識改革から始まって、組織、事業計画、設備、設計、部品調達、生産技術、生産過程、販売までクルマ作りと販売のすべてをあらためて強靱(きょうじん)化することが目的だ。外乱に強く、常に進化して市場の変化についていけること。当然そういう会社であるためには、商品そのものの魅力も高くなくてはいけない。だから実は「もっといいクルマ」はTNGAの出口の1つでしかない。

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