川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)
1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。
京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)
情報技術の進化や機械化によって業務効率が良くなれば、当然のように労働時間が短くなるはずだと考える人は多い。しかし実際には、職場にPCがなかったような昭和50年くらいから現在まで、正社員の総労働時間は年間2000時間前後で推移しており変化がない。手作業や力仕事が減って業務効率は飛躍的に上がったように感じるが、労働時間は減っていないのである。であれば、ITなどによる業務効率の向上は、労働時間には影響しないと考えるほうが普通である。
業務効率が上がっても、労働時間が減らないのはなぜか。
第一に、効率化された業務では人数が減らされるために、一人当たりの業務量が変わらないからだ。組織は常に、効率化された部門から人員不足の部門への配置転換をしたり、手付かずの課題や強化すべき業務に担当替えをしたりする。昔、銀行の窓口にはたくさんの行員が並んでいたが、ATMの登場によって数名しかいなくなっているのが典型だ。人数がそのままなら一人当たりの業務量は減るので労働時間も短くなるが、業務量に応じた人数に調整されるので働く時間は減ることがない。
第二に、働く側にとっては、労働時間の減少が収入の減少につながるからである。業務効率が上がって早い退社が可能になっても、月々の残業代が生活費として重要なら早くは帰れない。だから、早く帰らなくていいようにゆっくりと仕事を進める、新たな課題や別の業務を作る、他の業務を手伝うといったことになりがちだ。根本的には、「労働時間に応じた賃金を支払う」という労働法の基本的な考え方が、労働時間の短縮を難しくしているということになる。
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