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» 2017年03月24日 08時00分 UPDATE

カギは「スピード感」「ライセンス意識」:「君の名は。」飛騨市に学ぶアニメツーリズム (1/2)

大ヒット映画を活用したインバウンド事業は、どのような効果があるのか。成功するアニメツーリズムとはどんなものなのだろうか。「君の名は。」の聖地として観光客を国内外から集めた岐阜県飛騨市の例から学ぶ。

[青柳美帆子,ITmedia]

 日本政府は、2020年までに訪日外国人数を4000万人にする目標を掲げている。16年は前年比22%増の2403万9000人で、5年連続で前年を上回っている。今後成長を持続させていくためのキーとなり得るのが「アニメツーリズム」だ。

 アニメツーリズムとは、アニメやマンガの舞台やモデルとなった土地を訪れる旅行のこと。「聖地巡礼」とも呼ばれている。「クールジャパン」として輸出したIP(知的財産)を生かして、海外のファンを日本に呼び込もうとする取り組みだ。

大ヒット作品を生かして、自治体と作品がWin-Winになるアニメツーリズムはできるのか?(C)2016「君の名は。」製作委員会

 16年9月には、アニメツーリズムを促進するべく、アニメツーリズム協会が設立。「機動戦士ガンダム」で知られる富野由悠季氏を会長に据え、KADOKAWAやJTBなど、出版社や旅行会社が理事会に加わっている。国内88か所を「アニメ聖地」として選定しオフィシャル化し、アニメ聖地の自治体とコンテンツホルダーをつなぎ、外部に発信。本格始動は17年4月からだ。

 アニメツーリズム協会は、20年に国内・海外から年間400万人の観光客を日本の地域に送り込むことを目指している。

 15年の調査では、「日本のポップカルチャーを楽しんだ」と回答したのは272万3762人(13.8%)。「映画・アニメゆかりの地を訪問した」と答えたのは92万7658人(4.7%)だった。ポップカルチャーや映画・アニメを目的に訪日した外国人の満足度は非常に高いという。また、「次回、映画・アニメゆかりの地を訪問したい」と考えている人は全体の10.5%であるため、今後成長する余地がありそうだ。

富野会長

 「ずっとアニメファンを外に出さなければいけないと思っていた。『アニメだけを見ていてはダメ』というメッセージを発信していたので、アニメの聖地巡礼の流れが出てきてよかった。一方で、有名な聖地1か所に人が集中してしまう問題もある。『ここだけじゃなくて、あちらにもいいスポットがあるよ』ということを発信して、インバウンド効果を高める方法を模索していきたい」(富野会長)

 アニメ映画「君の名は。」も、聖地巡礼が盛んに行われた作品だ。本作は日本では累計動員数2000万人、興行収入243億円を突破。世界125か国と地域に配給された。興行収入は2億8100万ドル(約226億円)で、中国や韓国では日本アニメ作品の記録を塗り替える大ヒットとなった。岐阜県飛騨エリアや東京都新宿区近辺の風景が作中に登場し、多くのファンが観光に向かった。

 アニメツーリズム協会は、内閣府が進める調査事業「クールジャパン拠点連携実証プロジェクト」の業務委託を受け、アニメ映画「君の名は。」の中で登場する岐阜県飛騨エリアと東京都の聖地をめぐるモニターツアーを実施。3月3日開催のシンポジウムで、アニメツーリズム協会は実証プロジェクトの実施状況と効果測定を報告した。

 大ヒット映画を活用したインバウンド事業は、どのような効果があるのか。成功するアニメツーリズムとはどんなものなのだろうか。

実証プロジェクト、どうだった?

 実証プロジェクトは、どのような結果になったのだろうか。

 4泊5日のモニターツアーの公募ページには、世界67カ国・地域から約24万のアクセスがあった。この中から、タイ、香港、マレーシア、中国、台湾のインフルエンサー合計20人の参加が決定。参加者のSNSのフォロワー数の合計は4516万に上る。

 ツアーは参加者の国・地域別に行われ、細かなルートはそれぞれ違った。岐阜県飛騨市では美術館、図書館、神社などを見学し、作中で重要なアイテムとして登場する「組紐(くみひも)」作りを実施。高山市、白川村、下呂市を周り、最後は東京の聖地やコラボレーションカフェ訪問や、レコーディングスタジオでのアフレコ体験も行った。

 こうした試みは、「やりっぱなし」になり、効果が検証されないことがありがちだ。そこで今回の実証実験では、旅行者へのアンケートやヒアリングの他にも、旅行者の位置情報観測や旅行者のSNS投稿に対する反応の分析などを実施。観光ルート設計のヒントとしたり、“SNS映え”する観光地についての知見を深めたり――と今後に生かしていく。

 観光体験には、「映画と同じ体験ができたのがうれしい」「古民家の喫茶店で、古い建物を感じながらおいしいものを食べるのは楽しい」といったプラスの感想が寄せられた一方、「中国語の説明がなかったので、入っていいのか、写真を撮っていいのかが分からなかった」「ブログにアップすると『行きたいけど一泊するのは……』というコメントがついた。もっと長く滞在できるような観光地にしてほしい」などの手厳しい意見も寄せられた。

 実験の中で、見落としていた“文化の違い”を知ることもある。特産の飛騨牛は飛騨市における定番メニューで、変わり種では「飛騨牛ラーメン」なども供されたが、台湾のインフルエンサーからは「牛以外も提供していただきたい」という要望があった。SNSの投稿にも「飛騨牛のラーメンって、残酷ですね。私には食べられない」といったコメントもついていたという。

 牛を食してはならない宗教といえばヒンドゥー教が有名だが、実は敬虔(けいけん)な仏教徒も牛を食べないことがある。中華圏の人々を迎え入れるにあたって、牛肉以外の飲食物も選択肢として用意しておく必要があるのだ。

 これらの知見を生かし、より効果の高いアニメツーリズムを作り上げていくのが、アニメツーリズム協会と国の今後の課題だ。

 しかし、課題があるのはそれだけではない。「観光客を呼びこみたい!」と訴える地方自治体にも、求められているものがある。

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