企業のデジタル変革、障壁は「既存ビジネス」有識者に聞く(1/4 ページ)

» 2017年05月11日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

 他社に先んじて大きな成果を上げたゼネラル・エレクトリック(GE)を代表格として、ビジネスのデジタル化、いわゆる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」によって新たなビジネスモデルの創造、収益源の確保に力を注ごうとする企業が出てきている。ただし、DXそれ自体に対する議論はまだ始まったばかりだ。

 そこでITmedia ビジネスオンラインでは、DXに関する有識者や専門家たちの意見をシリーズでお伝えする。今回は、NTTデータ経営研究所で情報戦略コンサルティングユニット長 兼 デジタルビジネスデザインセンター センター長を務める三谷慶一郎氏に聞いた。

DXによって企業のビジネスモデルが大きく変わろうとしている(写真はイメージです) DXによって企業のビジネスモデルが大きく変わろうとしている(写真はイメージです)

アイデアをすぐにビジネス化できる

――NTTデータ経営研究所ではDXについてどう定義されていますか?

 当社ではデジタルビジネスと表現していますが、よくDXで語られているものとほぼ同義だと考えています。デジタルビジネスとは、「デジタル技術によって現実世界を写し取り、推論や学習を通じて導き出された成果をフィードバックさせることによって、新しい価値を提供するビジネス」と定義しています。

 別の言い方をすると、ITによる単なる業務支援ではなく、サービスそのものを創り出し、マネタイズに直結するものを指します。

――IT活用による業務改善ではなく、新しいビジネス価値を作ってマネタイズするのがポイントだということですね。

 はい、「ビジネス」と呼んでいるのには理由があって、新しいサービスを作ったり、ビジネスにデジタルを取り込んだりという点が重要なのです。こちらの図をご覧ください(下図参照)

デジタルビジネスの位置付け(出典:NTTデータ経営研究所) デジタルビジネスの位置付け(出典:NTTデータ経営研究所)

 これまで多くの企業はITで業務の省力化や自動化、バックエンドの改善を徹底的にやってきました。2006〜7年ごろに脚光を浴びたCIO(最高情報責任者)は劇的なBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)によって全体最適化を進めていました。ただし、あくまでもそれはコスト削減にとどまります。

 もちろんコスト削減は重要なのですが、そうではなくて、商売の道具として収益に直結するようなIT投資をどんどんやるべきだという声が生まれ、次第にビジネスの付加価値向上のためにフロントエンドでのIT活用に乗り出す企業が出てきました。

――攻めのITからさらにデジタルビジネスにシフトする流れが生まれた背景は何でしょうか?

 どこからという線引きは難しいですが、こうした流れができている1つの理由は、ITがコモディティ化したことにあるでしょう。かつてはITをビジネスで本格的に使うのは大企業だけでしたが、どんどんプレイヤーのすそ野が広がり、今では個人レベルにまで下りてきました。すると何が起きるのか。半分素人のような会社が作ったサービスが競争優位を持って、大きくビジネスが飛躍する状況があちこちで生まれています。アイデアをすぐにビジネス化できるのがデジタルの特徴なのです。

 なおかつ、デジタルビジネスを立ち上げる上で資金はそれほど必要ありません。以前は起業するには銀行からお金を借りるのが一般的でしたが、今やクラウドファンディングで500万〜1000万円ほど集めて会社を作ることは可能です。人材リソースもクラウドソーシングで調達できます。これまで大企業でなければできなかったことが、誰にでもできるように変わったことがデジタルビジネスの本質と言えるでしょう。

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