電車の色にはこんな意味がある杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/3 ページ)

» 2017年06月02日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

元の色を残す、という選択

 コーポレートカラーを主張しない鉄道事業者もある。大井川鐵道だ。SLの保存運転で有名な鉄道会社だが、実は一般客が利用する電車も保存車両のような性質を持つ。近鉄、南海、十和田観光電鉄から譲受した電車が活躍中で、全て現役時代のまま、なるべく手を加えない状態だ。十和田観光電鉄から譲受した電車は、元東急電鉄の車両である。東急ファンにとっても懐かしい。

 その大井川鐵道では先日、西武鉄道から譲受した電気機関車について、公式Twitterで塗装変更のアンケートを採り、ちょっとした騒ぎになった。比較的新しいスタッフが、電気機関車の運行に向けた整備のニュースを盛り上げようとしたそうだ。しかし、同社の方針、というか慣習を知る古参社員は、このツイートに驚いたという。同社広報が「色はそのままです」と公式回答して事態は収まった。

 大井川鐵道の場合、「元の会社の色を残す」がブランドになっている。これを理解しないといけない。同社が期間限定で運行している「きかんしゃトーマス号」はどうなんだ、という声も聞こえるけれど、トーマスたちはあくまでもソドー島からやってきた機関車たちで、大井川鐵道の車両とは別物。むしろ、元の会社を残すという方針には合っている。

自由な色使いの路線もある

 色分けでユニークな路線といえば、京王電鉄井の頭線、静岡鉄道、大阪市交通局の新交通システムのニュートラムだ。共通点は「なないろ」。列車の編成ごとに色が異なる。これはとても楽しい趣向だ。楽しいだけではなく、実用性もある。忘れ物をしたとき、何色の電車だったか覚えていれば探しやすい。途中の駅で友人と合流するときも目印になる。「青い電車の2両目」などと連絡できる。

photo 京王電鉄井の頭線3000系。レインボーカラーの元祖(出典:Wikipedia

 路線色ではなく、コーポレートカラーやブランドカラーでもない。自由な色使いができる理由は何か。かつて、京王電鉄に聞いたことがある。七色の先駆者(車)、旧3000系の引退イベントのときだ。3000系の製造担当者は退社していたので、七色になった本当の理由は分からないという。先頭車前面に色つきのFRP(繊維強化プラスチック)製マスクをつけたことから「担当者が競馬好きだったのかも、枠の色にも見えるし」という冗談もあったけれど、「他社と直通運転をしない路線だから、自由な発想で取り組めたのではないか」という話に納得した。その意味では、富山ライトレールをはじめ各地の路面電車もカラフルだ。

 自動車はユーザーの好みに応じて色を用意する。メーカーとしては、車体の造形に似合う色、特徴的なラインが引き立つような陰影などを考慮するだろう。ユーザーはいくつか用意された選択肢から好きな色を選ぶ。気に入った色がなければ、塗装工場に依頼して塗り替えてもいい。しかし、鉄道車両の色は好みというより、機能が重視される。「旅客案内」「誤乗防止」「ブランドの主張」などだ。

 七色の塗り分けも「楽しさの演出」、すなわち「企業イメージアップ」という機能に含まれるといえる。「全ての色をそろえたい」という模型ファンのコレクション魂をくすぐるという理由は……どうだろう。模型メーカーにとってありがたい話ではある。

 「安全のため」という理由もある。列車の接近を知らせるために、前面に白や黄色の帯を入れる。これは警戒色と呼ばれている。井の頭線の3000系が色つきのマスクをつけた理由は、銀色だけだと遠くから列車の姿を認識できないのではないか、という心配があったからかもしれない。

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