海のゴミ「アカモク」が、ヒット商品になろうとしている背景スピン経済の歩き方(1/5 ページ)

» 2017年06月20日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」に迫っていきたい。


 援助交際の温床だと言われる「出会い系バー」に、6年前から足繁く通って、時に若い女性たちを連れ出してお小遣いをあげていたというので、誰もが「そういう趣味のおじさん」だと思っていたら、実は「女性の貧困」の現状をこの目で見るため、長きにわたって自腹で「潜入調査」を続けていた“正義”の文科官僚だった――。

 そんなウソみたいな話が現実にあったように、世の中にはロクでもないものだと思われていたものが、実は多くの人々を救う立派なものだった、なんてことがちょいちょいある。

 海の世界でいえば、「アカモク」がそれにあたる。

 といっても、「は? なんだよそれ?」という人がほとんどかもしれない。アカモクとは北海道東部を除いて日本全国に生息する海藻なのだが、食用にしているのは秋田と石川の一部地域のみ。全国の漁業関係者のほとんどから「ゴミ」扱いされてきて、せいぜい畑の肥料にされるというのが関の山だったからだ。

 パッと見は細い春菊のようなビジュアルのこの海藻は、ある時は漁船のモーターにからまり、ある時は刺し網やカキの養殖施設にからみつく「流れ藻」として、海の男たちから嫌われてきた。ノリの養殖業者にとって品質を落とす「天敵」としても知られている。

 アカモクがいかに嫌われてきたかというのは、地元の呼称からもうかがえる。宮城県では「ジャマモク」や「バツモ」(×の藻)。三重県では「クソタレモク」と、正義の官僚へ向けられた「人格攻撃」をほうふつするかのように、盛大にディスられてきたのである。

 しかし、そんな「海のゴミ」が驚くなかれ、実は多くの人々を救う「スーパー海藻」ではないかと再評価され始めているのだ。

かつて「海のゴミ」と言われていたアカモクが再評価され始めた(出典:岩手アカモク生産協同組合)
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