2050年、この世はどうなる? 英『エコノミスト』が予測オープンになること(1/5 ページ)

» 2017年06月27日 08時00分 公開
[川口昌人ITmedia]

 鋭い分析と予測に定評のある英『エコノミスト』誌が、今度は2050年のテクノロジーを予測した。『2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する』(以下、2050年の技術、文藝春秋)は、AI(人工知能)、自動運転車、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、軍事、エネルギー、農業、医療など20の分野での2050年の技術と、それが社会・経済に与える影響を展望した意欲作だ。

 日本での出版を機に、この調査の指揮をとった同誌編集局長のダニエル・フランクリンが来日。以下は同氏が早稲田大学ビジネススクールの菅野寛教授と行った、パネルディスカッションの要約である。

2050年、テクノロジーの進化によってこの世はどうなっているのか

ミドルスキル層の仕事

菅野: 『2050年の技術』の中で紹介されている、破壊的かつ大規模な技術の変化「メガテック」が、日本にどんな影響をあたえるかについて考えていきたいと思います。

 例えば私は、ミドルスキル層の仕事が、AIを始めとする新しいテクノロジーで置き換えられてしまう可能性について懸念しています。勤勉で教育水準の高いミドルスキル層の厚みこそは、日本の成功モデルの核でした。そうした人々の仕事がなくなることは、大変恐ろしい事態のように思えます。

フランクリン: 憂慮すべき点は確かにあるように思いますが、少し私の観測を述べさせてください。第1に、新しいモデルについて懸念を抱いているのは日本だけではないということです。例えばドイツでは今、「Industrie 4.0(第4次産業革命)」と題した大規模なプログラムを進めています。日本と同様に、自分たちの過去の成功モデルが通用しなくなるかもしれないという危機感を持っているからです。米国でトランプ大統領が誕生したのも、やや後ろ向きではありますが同様の理由ですし、中国も経済成長が減速する中で、現状のモデルを変えなくてはいけないのかという懸念を抱いています。

 一方で、インドやアフリカのような、近年急速に発展している、あるいはこれから発展するであろう国々は、真似ができるモデルの不在に悩んでいます。中国や日本の真似をすればいい、という時代は終わりました。なぜなら、それらは未来のモデルとは違うからです。つまり世界中のどの国も、新しい時代のモデルに不安を抱いているのです。

 次に述べておきたいのは、現代の競争の主体は、国同士ではなく企業や個人だということです。教育政策や産業規制など、国の政策についていろいろ議論することも大事ですが、もう少し身近なレベルというか、例えば個人の生産性の向上のようなことに目を向けることは有効だと思います。

 そして3番目に言いたいのは、さまざまな新しいテクノロジーが変化のスピードを加速するということをしっかり認識した上で、過去の成功体験にとらわれないチャレンジをすることと、これまで築いてきた自らの強みをさらに磨くこととのバランスを上手にとるべきだということです。特にテクノロジーの分野では、日本には誇るべき過去の蓄積がありますし、研究開発に力を入れる文化はどんな環境下でもアドバンテージになるでしょう。

早稲田大学ビジネススクールの菅野寛教授(左)とダニエル・フランクリン氏(右)がパネルディスカッションを行なう。イベントは4月28日、早稲田大学で開かれた。
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