連載
» 2017年06月27日 08時02分 公開

スピン経済の歩き方:日本人が「通勤地獄」から抜け出せない、歴史的な背景 (5/5)

[窪田順生,ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5       

70年たった今、「ブラック企業」に

 管理職になればなるほど高い出勤率を誇るという事実からも、この戦中世代のサラリーマンたちが学んだ軍人精神が、その後の日本のサラリーマン像に大きな影響を与えているのは明らかだ。

 それは同じ紙面で25歳の「産業戦士」が感動して語っている言葉を見てもよく分かる。

 『軍隊には個人主義がない、わかっていたつもりでもこれには感動した。美しい絶対服従も戦勝の基と思う。上長に深い教養と理解があり、精強な部下がこれに絶対服従する組織を私達の職場に建設したい』(同紙)

 彼が理想だと感じた「精強な部下がこれに絶対服従する組織」は、70年たった今、「ブラック企業」と名を変えてしっかりと後世の我々に受け継がれている。「美しい絶対服従」こそが勝利に結びつくという思想も同様で、今も日本の職場に溢れる「パワハラ文化」のなかに見つけることができる。

 このように日本企業が蝕まれている「病」のルーツが軍人精神にあることを踏まえると、なぜ我々が「時差通勤」という習慣に強い抵抗があることの原因が見えてくる。

 それは一言で言ってしまうと、我々が70年前に刷り込まれた「産業戦士」の呪縛からいまだ解き放たれていない、ということだ。

 軍隊のように組織に「絶対服従」することこそが企業人なので、個人の裁量で出勤などできるわけがない。「働き方」は自分で決めるのではなく、組織や「上」が決めるのだ。本気で「時差通勤」を普及させようと思うのなら、まずはこの「常識」を破壊すべきである。

 「時差ビズ」普及のため、これから小池さんのメディア露出が増えてくる。そこで提案だが、禁煙CMのように、こう呼びかけてはどうだろう。

 「スマホもパソコンも普及して、ネットを介してどこでも打ち合わせや商談ができるのに、毎朝決まった時間に会社に行く。そんなあなたは、もしかしたらかなり重い病にかかっているかもしれません」

 定時に会社に到着することが「働く」ということではない。この常識が広まらないことには、どんな改革を訴えたところで、「通勤地獄」は決してなくならないのではないか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


前のページへ 1|2|3|4|5       

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ

マーケット解説

- PR -

ITmedia 総力特集