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» 2017年06月30日 07時00分 UPDATE

杉山淳一の「週刊鉄道経済」:東急の“時差Biz特急” 多摩田園都市通過の本気度 (1/4)

東急電鉄が田園都市線の早朝に特急を新設・増発する。その名も「時差Bizライナー」。小池都知事が提唱する“時差Biz”に対応した列車だ。都議会選挙期間中の発表はあざといけれど、ダイヤを見ると神奈川県民向けサービスになっている点が面白い。

[杉山淳一,ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 最近の東急電鉄の施策が興味深い。3月に東横線で東急初の有料座席指定列車「S-TRAIN」の運行が始まった。7月21日からJR横浜駅と伊豆急下田駅を結ぶ観光列車「THE ROYAL EXPRESS」の運行も開始する。この列車は東急電鉄の線路を走らない。横浜〜伊東間はJR東日本の線路を走り、伊東〜伊豆急下田間は伊豆急行の線路を走る。伊豆急行は東急グループで、東急は運行会社として、いわばプロデューサーの立場で参加する。東急は横浜駅に専用ラウンジを設置して、新しいサービスの正面玄関とする。

 6月27日、東急は次の奇策を発表した。田園都市線に特急「時差Bizライナー」を走らせる。早朝1本だけの臨時列車で、平日限定8日間だけの設定だ。しかし、成功すれば期間延長するかもしれないし、次のダイヤ改正で定期列車に格上げするかもしれない。それを奇策と呼びたい理由は、従来の東急電鉄のブランドからは一線を画したと感じるからだ。

photo 東急の奇策とは……

"東急の常識"から離れた通過駅

 特急「時差Bizライナー」は中央林間発押上行き。途中停車駅は、長津田・あざみ野・溝の口・渋谷・半蔵門線内各駅だ。この停車駅設定が東急らしくない。東急の沿線開発の重要拠点、青葉台・たまプラーザ・鷺沼・二子玉川を通過してしまう。特にたまプラーザ駅通過は衝撃的だ。この駅はプラーザと名の付く通り、東急グループが総力を挙げて開発した多摩田園都市の中央広場の位置付けだった。あざみ野駅はたまプラーザと江田の間に新設された駅で、開設当初は快速も止まらなかった。それがいまや特急停車駅。たまプラーザに対する格付けの下克上である。

photo 「時差Bizライナー」の停車駅(出典:東急電鉄報道資料

 たまプラーザの駅名は、地名をとって元石川駅となる計画だったが、当時の東急電鉄、五島昇社長の発案によって変更された。彼は東急グループを築き上げた五島慶太氏の長男。いわば東急の皇太子の勅命だった。あまりに奇抜な名前のため、芸術家・岡本太郎の命名という迷信も生まれたほどだ。そのたまプラーザを、軽やかに通過する列車が誕生したとは感慨深い。

 東急電鉄と五島家の資本関係はもともと薄いとはいえ、たまプラーザ通過は「五島家との決別」といううがった見方もできよう。そうでなくとも、栄光の多摩田園都市の施策に転換期が来たといえそうだ。これは東急沿線に生まれ育ち、いまも実家が東急田園都市線沿線にある筆者の大げさな感想かもしれない。しかし、田園都市線沿線に住まう人々には、少なからず衝撃があると思う。

 冷静に神奈川県の鉄道ネットワークを俯瞰すれば、時差Bizライナーの停車駅は理にかなっている。中央林間駅は小田急電鉄江ノ島線の接続、長津田はJR横浜線、あざみ野は横浜市営地下鉄ブルーライン、溝の口は東急大井町線の始発駅だ。他の路線との乗換駅に絞り、沿線外から流入する通勤客を誘導するという意味合いが強い。溝の口停車は「乗客を大井町線に誘導し、渋谷の混雑を解消する」という近年の混雑対策に沿っている。大井町線は2017年度中に急行を6両から7両にするための改良工事を実施中だ。

photo 田園都市線(赤)と大井町線(緑)の位置。赤丸の駅は時差Bizライナーの停車駅、青丸は急行停車駅。東急公式サイトによると、多摩田園都市は梶が谷駅から中央林間駅にかけて開発された4ブロックで、緑色の円がおおよその位置。(国土地理院地図を加工)
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