電動化に向かう時代のエンジン技術池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)

» 2017年07月10日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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ポンプ損失をいかに低減するか?

 燃費改善に大きな役割を果たしたもう1つは「吸排気行程圧力差」の改善だ。ミラーサイクル、あるいはアトキンソンサイクルとして知られているシステムが一番ポピュラーだろう。エンジンはガソリンを燃やすために空気を吸い込む。掃除機と同じようにこれには当然エネルギーが必要だ。それはエンジンの出力を目減りさせる。

 吸い込まれた空気は、燃料と混合されて圧縮される。これにもエネルギーが必要だ。「だったら吸気も圧縮もしなければ……」だとエンジンは動かない。だからこれまで必要悪として見逃されてきたのだ。

 しかしロスはロスである。エンジンで本当に大事なのは燃焼ガスがピストンを押し下げる行程で、これは絶対必要だ。何とか吸気と圧縮のエネルギー損失を減らして、燃焼圧だけは従来通りに受け取れる方法はないものかと多くのエンジニアが考えた。

日産はこれまでと全く異なる新しい可変圧縮比エンジンを開発した 日産はこれまでと全く異なる新しい可変圧縮比エンジンを開発した

 まずは吸気だ。吸気にはエンジン出力をコントロールするスロットルバルブが必要だ。これで空気の流入量を調整する。ということは、全開にしないときは口をすぼめて息を吸い込むようなもので大きな抵抗が発生する。すでに書いたように空気とガソリンの比率は決まっているので、空気が増えればガソリンも増やさなくてはならない。だから口をすぼめるのが嫌でも、すぼめないとエンジンは全開運転になってしまって速度調調整ができない。だから吸気抵抗でパワーロスするのが分かっていても、スロットルバルブを使わざるを得なかったのだ。

 しかしよく考えてみれば、燃焼に必要なのは酸素だ。窒素や二酸化炭素ならいくら吸っても良い。スロットルバルブで吸気を絞る代わりに、酸素を含まない排気ガスを混ぜてやれば、燃料とちょうど釣り合う酸素量に調整できる。つまりアクセル開度をEGRで調整するやり方が考案された。これが「大量EGR」である。

 次に圧縮ロスだ。圧縮するときに弁を閉じなければ空気というばねを押し縮めないで済むので、ロスが減る。もちろん圧縮の全行程を開けっ放しにしたら、混合気が全部出ていってしまう。だから適量が残る程度のところまで弁を解放し、途中で締める。それでは圧縮比が下がってしまうので、下死点からの圧縮ではとてつもない圧縮比のエンジンをあらかじめ作っておいて、ちょうど良い圧縮比になる辺りで弁を閉める。燃焼行程では長いストロークを全部使ってエネルギーをより多く回収するのだ。

Well-to-Wheelではまだまだ高いポテンシャル

 まとめると、近年の燃費向上に貢献しているのは、ストイキ直噴による高圧縮化、EGRによる点火タイミングの常時適正化、大量EGRによるスロットル抵抗ロスの削減、ミラーサイクル(アトキンソンサイクル)による圧縮ロスの低減あたりがメインとなっている。もちろんそれ以外にもさまざまな技術がある。例えばCVTなどによってエンジンの運転マネージメントを効率良くしている部分などもある。

 こうした地道で普段説明のされることのない技術によって、Well-to-Wheel(井戸から車輪まで)で考えるとガソリンエンジンのCO2排出量は今でも電気自動車とそこそこ戦えるレベルにある。まだまだ終わっていないのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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