電動化に向かう時代のエンジン技術池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

» 2017年07月10日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 前回の記事では、エンジンの省燃費技術を後押ししてきた経済の仕組みの話を書いた。しかし、ここ最近のニュースを見る限り、内燃機関への逆風は強まるばかりだ。フランスは2040年までに内燃機関の販売を国内で止めると言い出したし、ドイツでも2030年以降、内燃機関搭載車の新規登録を禁止する法案が可決されている。ボルボも2019年から内燃機関のみを搭載したクルマを徐々に縮小していくという。中国では政策的に電気自動車やPHV(プラグインハイブリッド自動車)の後押しを行っている。

 これにはいくつかの背景がある。欧州では長らく12ボルトで稼働してきた車両電装のシステム電圧が48ボルトに引き上げられるめどが付き始めたことが大きい。12ボルト規格はランプを点けたり、ワイパーを動かしたりという補機システムの電源として最適化されていたもので、動力源として電気を使う発想がなかった時代の規格だ。

 1トンを軽く上回る車両の動力源としては能力不足が否めない。電圧が引き上げられることによって、例えば、サスペンションの電動アクティブ制御など、より大きな力が必要な車両制御系にもメリットが出てくる。規格の変更はそれなりに大変ではあるが、未来展望を考えれば、48ボルト化は避けて通れないものになりつつある。12ボルトしかなかった時代に対して、電気動力が圧倒的に導入し易くなる。

 もう1つの背景は、電池やモーターの価格低減と性能向上がメーカーの予想を裏切るほどの速度で進行していることだ。某社で聞いた話では「ほんの数年前までは、電動化は時期尚早と考えていましたが、すでにコスト面では十分可能な領域に入りました」と言う。各社がそういうスタンスになれば、需要が高まって、現在絶望的に見える給電インフラも意外に早期に解決する可能性が出てくる。

 ただし、インフラ電力のエネルギー総量が果たして自動車の電動化需要に耐えるのかという点で、まだ眉唾感が大きい。特にフランスの場合、電動化と併せて、長期的には原発の縮小までも掲げており、一体それでどうやって増加する電力需要を賄うのかという点については、あまり現実的なプランは見えてこない。「変わらなきゃ」という意思は分かるが、方法論がない。

ホンダ・シビックType-Rの燃焼室回り。赤系の色で描かれるインジェクターが燃焼室に直接燃料を噴射し、強いタンブル(縦渦)で燃料と空気をできる限り均等に混ぜる ホンダ・シビックType-Rの燃焼室回り。赤系の色で描かれるインジェクターが燃焼室に直接燃料を噴射し、強いタンブル(縦渦)で燃料と空気をできる限り均等に混ぜる

 さらに電池の性能向上には今後何度も充電規格のアップデートが必要だろう。すでに充電インフラで先行する日本で起きている問題だが、充電器の規格が新旧混在しており、旧型ではそもそも充電が不可能だったり、充電時間が非常識に長くなったりということが起きている。充電拠点を大幅に増加させなければならない局面で、インフラとして設置した充電器がみるみるレガシー化するのでは、インフラ整備は一向に進まないだろう。

 という現実を足元に見つつも、各国から届くニュースを見ていると、まるでガソリンもディーゼルも、もはやおしまいかという印象を受ける。長期的に見れば、電動推進システムを持ったクルマが比率として増えていくことは確実だが、だからと言って「エンジンはなくなる」という話には当分ならない。

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