古くて新しい、JR東日本の「新型電気式気動車」杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)

» 2017年07月21日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

古くて新しい「電気式気動車」

 非電化区間の列車の動力は、人力、馬力、蒸気機関、内燃機関と変化してきた。そこに新たにハイブリッド方式が加わり、電気式気動車が登場した。この順序を考えると、最進化形が電気式気動車に見える。JR東日本の報道資料にも「当社としては初の電気式気動車」とある。しかし、電気式気動車のアイデアは古く、こなれた技術だ。「当社としては初の」という言葉遣いは、他社で先例があるからだ。

 “他社”には、ドイツ鉄道の非電化区間向け「ICE TD」など海外の事例が多い。そして、実は戦前の官営鉄道やJR化以前の日本国有鉄道にもあった。また、機関車にも電気式ディーゼル機関車があって、JR貨物でも採用されているし、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」の機関車もJR貨物の同型車だ。

 ドライバーに限定されそうだけど、気動車の話はクルマに例えると分かりやすい。エンジンを搭載した客車、つまり初期の気動車は機械式といって、運転士が最適なギアを手動で選択する。クルマに例えればマニュアル車だ。気動車1両で走る分には問題ないけれど、乗客数が増えて2両以上になると面倒なことになる。1両を追加するだけなら動力のない客車を連結して引っ張ればいい。しかし、勾配の多い区間を走らせるとなると、動力車を2台つなぎたい。この場合は蒸気機関車の重連と同じで、1両につき1人の運転士が乗り、合図をしながら走らせることになる。3両なら3人、4両なら4人だ。蒸気機関車より人手が必要になる。

 そこで、米国で考案された「ガソリンエンジンを発電機として使い、発電された電力でモーターを回す」という方式を取り入れた。エンジンではなく電圧でモーターを制御するため、マニュアルミッションは不要。複数の車両の配線をつないで、1つの運転台で一括してコントロールできる。これを総括制御という。

 しかし、1台の気動車にエンジンとモーターという重い部品を載せるため非効率で、製造コストもかさむ。機関車ならともかく、気動車は機械の設置スペースに限界がある。当時の効率の悪いエンジンと直流モーターの組み合わせでは走行性能が低かった。直流モーターを高回転させるために必要な電力をまかなうためには、大きな発電用エンジンが必要だが、それを設置する場所がない。

 やがて、トルクコンバーターによる変速機が開発された。クルマでいうところのオートマチック変速機構だ。鉄道車両では液体式変速機という。これ以降、気動車に関しては液体式変速機が主流となり、電気式気動車は普及しなかった。

 ただし、機械設置スペースが大きい機関車については電気式の採用実績がある。しかし電気式気動車と同じく、当時のエンジンと直流モーターは非力で高価なため、液体式変速機を使ったディーゼル機関車が主流となった。この弱点を解決して、1992年にJR貨物が電気式ディーゼル機関車を採用する。ハイパワーの直噴エンジンと交流発電機、インバータ制御、三相交流モーターのおかげだ。

photo 電気式気動車が走る仕組み(出典:JR北海道報道資料
photo 従来の気動車はエンジンと車輪を推進軸(ドライブシャフト)と自在継手で接続。液体式変速機で推進軸の回転数を変更する

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