カムリの目指すセダンの復権とトヨタの全力池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2017年07月24日 06時05分 公開
[池田直渡ITmedia]

 「現行カムリの形」と言われてスタイルが思い出せるだろうか?

 筆者は怪しい。街中で見かけても「これカムリだよなぁ」と微妙に自信が持てず、エンブレムを確認してしまう。影が薄い。実はそれはカムリだけの問題ではない。今やセダンそのものの存在価値が希薄化してしまっているのだ。

新型カムリのキャッチコピーは「ビューティフル・モンスター」 新型カムリのキャッチコピーは「ビューティフル・モンスター」

 「プロトコル」と言う言葉を何と訳すか。辞書的には「儀礼・典礼」ということになるのだろうが、自動車の文脈で使う場合、「形式」あたりが妥当かもしれない。要するに、ドレスコードのようなもの。うるさいことを言うときの理屈上の形とでも言うべきか。

 セダンは本来、空間と走りとプロトコルが織りなすバランスが最も良かった車型だ。二酸化炭素(CO2)の排出を考えなかった時代、ドイツを中心に欧州では本当に時速200キロで巡航する人たちがいたし、そういうマイ新幹線的な使い方をしようとすると、腰高なミニバンでは高速運動性が危うかった。4人と荷物をしっかり載せて、超高速移動が行えるという意味で、セダンは最も現実的なボディ形式だった。プロトコル的に言えば、人と荷物を一緒くたに載せるのは品が無い。だから荷物室をちゃんとキャビンと区分けするという意味でも3ボックスのセダンは高級だった。

 欧州でベルリンの壁が崩壊し、旧東欧諸国にモータリゼーションがもたらされると、自動車が旧西欧諸国の独占物では無くなり、販売台数が跳ね上がった。結果として欧州の高速道路網は容量が不足して、時速200キロどころか慢性的渋滞に悩まされるようになったのである。渋滞で超高速域を使えなくなり、低速で走ることが現実になれば、ちょっとくらい重心が高くなっても室内空間の広さの方がありがたい。ベンツもBMWもアウディも、かつてはセダンとワゴンくらいしか無かったボディバリエーションが爆発的に増えて、ミニバン(欧州流呼称はピープルムーバー)やSUVなどが矢継ぎ早に追加されていった。

 バブル期には渋滞で交通が麻痺寸前まで悪化した日本と、オイルショックを機に時速55マイル(約90キロ)規制が敷かれ(1995年に撤廃)速度違反に厳しい北米では、欧州のミニバンブームに先んじてミニバン/SUV主流時代に突入した。米国はそのブームが始まったタイミングこそ世界で一番早かったが、変化そのものはじわじわと起きている。1500万台という巨大マーケットの米国でも、ゆっくりだが確実にセダンはSUVに浸食されその数を減らしている。

 一方、日本は相当にドラスティックな変化に見舞われ、移り変わりは急速に進んだ。コロナとブルーバードのような「ど真ん中」のセダンが消えて、ノアとセレナがその跡目を継ぐことになっていく。

 巨大な北米マーケットで、SUV/トラックに取って代わられるまで最量販カテゴリーだった「ミッドサイズセダン」で、カムリは16年連続の首位に輝いたモデルだ。つまり、カムリはトヨタの北米事業の中核中の中核を担ってきた。トヨタはカムリについて「日本のマーケットなんてどうでも良い」とは口が裂けても言わないだろうが、ビジネスとして社運がかかる北米とは、重要度は月とすっぽんだ。

 要するにセダンは世界中どこでも厳しい。右肩下がりは当たり前、日本では絶滅危惧種である。北米でもじり貧が始まっている。その状況を打破して「セダンの復権」を目指す新型カムリは、セダンに吹きすさぶ逆境を跳ね返し、北米で成功することが最重点戦略目標となる。

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