世界初 マツダSKYACTIV-Xをドイツで試運転してきた池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2017年09月07日 07時08分 公開
[池田直渡ITmedia]

制御技術

 技術的には非常に面白いことがいろいろと行われている。例えばこのエンジン。直噴のインジェクターから燃料を2回吹いている。1回目は薄く。それは燃料と空気が混ざる時間を稼ぐために、早目に噴射される。ここで薄く吹くのは、圧縮による着火を防ぐためだ。

 圧縮着火エンジンだからと言って、いつ燃え始めても良いわけではない。むしろそれをどうコントロールするかがこのエンジンの肝である。圧縮着火は燃料濃度と圧縮だけで決まるわけではないそうで、即着火しない濃度でも長時間圧縮したままだとやはり燃えてしまうのだそうだ。だから1回目は薄く吹いて、2回目は着火したいタイミングの直近で追加噴射し、プラグを使って火球を発生させることで残りの燃料を自己着火する圧力まで加圧する。

プラグに着火された火種が周囲の混合気を圧縮して着火温度まで引き上げる プラグに着火された火種が周囲の混合気を圧縮して着火温度まで引き上げる

 まだまだ秘密だらけで教えてくれないことが多いが、常識的に考えれば、これは層状燃焼でもある。つまりプラグの回りには少し濃い目の燃料を用意して着火しやすくし、プラグから離れた部分を薄く保つことで平均した時に薄い混合気比率に持っていくのだ。

 だから1度目は薄く、2度目は濃い。そうやって2層の混合気を作り出しているものと考えられる。ちなみにこれも2回だけに限る必要はなく、ディーゼルの場合、5回程度に分けているので、そういったコントロールも今後メリットがあれば加えていくと言う。

 さて、次いで乗ったのはマニュアルトランスミッション。個人的にはこちらの組み合わせの方が面白い。勝手に変速しない分(ただしATはまだセッティングを出すところまでいっていない)、自在にエンジンのおいしいところが使える。かなり下まで粘るので、ずぼらな運転も可能だし、何しろ運転の自由度が高い。前述の広瀬氏の言葉を借りれば「クルマってこういうものだったよなぁ」となる。近年のクルマは燃費にしゃかりきになり過ぎた結果、そういう自由度を失っていたことをこのエンジンは思い出させてくれる。

 SKYACTIV-Xの印象を一言でいえば「優等生」である。当たり前のことを当たり前でない水準できちっとこなす。「お前はホントいつもちゃんとしているよな」という部分で恐ろしいまでの信頼感がある。

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