体臭ビジネスが盛り上がると日本人がおかしくなるのは本当かスピン経済の歩き方(2/5 ページ)

» 2017年09月26日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

行き着くところは「無臭社会」

 そう聞くと、「いいことじゃないか」と思う人も多いだろう。

 確かに、「体臭ビジネス」が盛り上がるというのは日本経済的には明るいニュースだ。職場で不快な思いをする「スメハラ」がなくなれば生産性も多少は上がるかもしれない。何よりも、朝の満員電車で、見知らぬオッサンの加齢臭を強制的に嗅がされている女性たちからすれば、「自分がどれだけ臭いか気付いて!」というのは切実な願いだろう。

 そういう意味では、筆者も「体臭の見える化」が進んで世のおじさんたちが自分のニオイをケアする世の中も悪くないと思うが、一方で数値化してまで臭いを嫌悪する今の風潮がちょっと恐ろしい気もしている。

 あまり知られていないが、実は昔から「生活臭や体臭を極度に排除すると人間がおかしくなる」というようなことを主張する方たちがちょいちょいいるからだ。

 「周囲を不快にさせない」ということを突き詰めていくと、結局行き着くところは「無臭」だ。最近流行している香り付き柔軟剤も人によっては「トイレの芳香剤みたいでキツい」なんて意見もあるように、「スメハラなき社会」は、「無臭社会」である。

 体臭にせよ、口臭にせよ、足臭にせよ、世界はさまざまな臭いであふれているはずが、化学的に生み出された芳香剤や消臭剤以外は「不快な臭い」として排除される。そういう不自然な環境に身を投じれば当然、「嗅覚」にも異常があらわれる。それはつまり、人間そのものがおかしくなることだというのだ。

 そんな大げさなと思うかもしれないが、実は「嗅覚」というものが、生物の脳に何かしらの異常をもたらす、という研究がこれまでにいくつも報告されているのだ。

 例えば、2007年に『ネイチャー(電子版)』に掲載された、東京大学理学部の小早川高特任助教(当時)らの研究では、においに関する特定の神経回路を断ったマウスが、本来なら忌避行動をとるはずのネコに対して恐怖を見せずに近づいたという。

 過去にはもっと恐ろしい「異常」が出たという報告もある。サブリミナル広告やマインドコントロールについて研究していた著述家ウィルソン・ブライアン・キイの『メディア・セックス』(リブロポート)という本には以下のような実験が紹介されている。

 「嗅覚中枢を切除されたアレチネズミは、従順になるが、他の仲間と接触したり、交尾したりすることを拒絶し、仲間に攻撃された時でさえ反撃する様子も見せなかった。そして、なわばりづくりやつがいになる行為も見せなくなってしまった」(P143)

 もちろん、ネズミと人間を同列に語ることなどできないが、何やら今の日本人と妙にカブらないか。

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